内部留保で設備投資をすることはできない
設備投資をするためには、鉄やセメントや設備機械を買う必要があります。そのためには現金が必要です。現金があればそれを使えばよいですし、現金がなければ預金を引き出せばよいでしょう。預金も少なければ、銀行から借入をすればよいでしょう。いずれの場合も、内部留保は増減しません。
内部留保が増減するとすれば、「設備投資する現金が不足しているから、今期は利益が出ても配当せずに設備機械の購入資金にする」という場合でしょうが、その場合には内部留保は増加します。「内部留保を使って設備投資をする」わけではないのです。
もちろん、「無謀な設備投資や無謀な賃上げによって企業が赤字に転落し、結果として内部留保が減ってしまう」可能性はありますが、それは「内部留保を使って設備投資や賃上げをした」ということではないでしょう。そして、無謀ではない設備投資であれば、設備の稼働にともなって企業の利益が増え、利益から配当を差し引いた内部留保はむしろ増える場合も多いでしょう。
内部留保は資本効率を低下させるが、経営を安定させる
株主としては、「内部留保を使って配当しろ!」と言いたいでしょう。「資本金10、内部留保40、銀行借入50、資産100」という会社の株主としては、40を配当させることで資金を手にすることができ、それで別の会社の株を買えば、「資本金10、内部留保0、銀行借入90、資産100」という会社を5社持つことができるようになるわけですから、より大きな利益を期待できるようになるからです。
しかし、それは企業にとっていいこととは限りません。「資本金10、内部留保40、銀行借入50、資産100」という企業であれば、49の赤字を計上しても倒産せず、従業員が路頭に迷うことも避けられるかもしれませんが、「資本金10、内部留保0、銀行借入90、資産100」という企業は11の赤字を計上しただけで倒産してしまうかもしれないわけです。
企業が倒産すれば、従業員が路頭に迷うだけでなく、下請け企業も倒産しかねませんし、企業が持っているノウハウや顧客リストなどの「バランスシートに載っていない財産」が雲散霧消してしまうかもしれないわけで、それは日本経済にとっても大きな損失となりかねません。
銀行にとっても、「資本金10、内部留保40、銀行借入50、資産100」という企業が内部留保を配当して「資本金10、内部留保0、銀行借入90、資産100」という企業になることは好ましくありません。企業が倒産して、銀行の融資が回収できなくなるリスクが高まるからです。
つまり、内部留保が大きいこと自体が問題ではなく、むしろ内部留保が大きいことで企業が倒産しにくくなるというメリットも見込めるわけです。内部留保を使って設備投資や賃上げをすることはできず、内部留保を使って配当をすることも、やりすぎるとマイナスだ、というわけですね。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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