M&Aを「成功させる経営者」と「失敗する経営者」の決定的違い――M&Aトラブル予防の超キホン【M&A弁護士が解説】

M&Aを「成功させる経営者」と「失敗する経営者」の決定的違い――M&Aトラブル予防の超キホン【M&A弁護士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

中小企業のM&Aでは、慎重な準備をして臨んでも、M&Aトラブルを完全に排除することはできません。しかし、リスクを理解して主体的に判断することで多くの問題は回避できます。M&Aを成功させるための重要なポイントを実例を交えながら解説します。※本記事は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士、土屋勝裕氏の書き下ろしです。

想定外のM&Aトラブルの完全予防は「実質的に不可能」なので…

中小企業のM&Aでは、どれほど慎重に準備を行ったとしても、想定外のM&Aトラブルが発生する可能性を完全に排除することはできません。デューデリジェンス、表明保証、価格調整条項、コベナンツ条項など、様々なリスク管理手法が存在するものの、実際には、M&A後に初めて顕在化する問題が少なくありません。

 

特に中小企業では、会計処理、労務管理、取引慣行、人間関係などが必ずしも形式的に整理されていないことも多く、資料上は把握できない問題が存在します。また、M&A後には経営環境や従業員の心理状態も変化するため、M&A前には想定していなかった事態が生じることがあります。

 

そのため、M&Aにおいて重要なのは、「すべてのM&Aトラブルをゼロにすること」ではなく、一定の想定外が生じ得ることを前提として、どこまでリスクを把握し、どのように対処するかを考えることにあります。

なぜ経営者はM&Aを学ばずに交渉の席に座るのか?

もっとも、中小企業の経営者の中には、M&Aについて十分に学習しないままM&A取引に入ってしまうケースも少なくありません。

 

その背景には、M&Aが人生で何度も経験する取引ではないことがあります。多くの経営者にとって、M&Aは一度限りの出来事であり、「専門家に任せればよい」と考えてしまうことがあります。

 

また、M&A仲介業者から「一般的な条件です」「通常どおり進めれば問題ありません」と説明されることで、M&A特有の法的リスクや利益相反構造について深く勉強・検討しないまま進行してしまうこともあります。

 

しかし、M&Aでは、株式譲渡契約書の内容、表明保証、役員退職慰労金、経営者保証、価格調整条項、コベナンツ条項など、多数の重要論点が存在します。これらを十分に理解しないまま意思決定を行った結果、後に重大なM&Aトラブルへ発展することがあります。

「専門家がいるから安心」「説明を受けたから問題ない」ではダメ

M&Aトラブルの実務を見ていると、M&Aに成功する経営者と、M&A後に深刻なトラブルへ巻き込まれる経営者との間には一定の傾向が見られます。

 

M&Aに成功する経営者は、「M&A仲介業者が進めてくれるから大丈夫」と考えるのではなく、自らM&Aの基本構造やリスクを学ぼうとします。そして、M&A契約内容、リスク配分、支払条件などについて、自分自身で理解した上で意思決定を行います。

 

これに対し、M&Aトラブルに発展するケースでは、「専門家がいるから安心」「説明を受けたから問題ない」と考え、M&A契約構造やリスクを十分に理解しないまま進行してしまうことがあります。

 

特に中小企業のM&Aでは、売主が初めてM&Aを経験する一方、買主やM&A仲介業者は多数の案件経験を有していることも少なくありません。そのため、知識や経験の差が、そのままM&Aの交渉力やリスク認識の差につながることがあります。

経営者が学ぶべきM&A知識体系と実践方法

中小企業の経営者がM&Aを進めるにあたっては、最低限、次のような知識体系を理解しておくことが重要となります。

 

まず、M&A契約の基本構造です。特に、株式価値評価、表明保証、コベナンツ、価格調整条項、アーンアウト条項、デューデリジェンスなどは、M&A後のトラブルと直結しやすい項目となります。

 

次に、M&A仲介業者の利益相反構造や、M&A仲介契約の内容について理解しておく必要があります。成功報酬体系、テール条項、責任制限条項などを十分に理解しないままM&A仲介契約締結を行うと、後にM&A仲介手数料トラブルへ発展することがあります。

 

さらに、デューデリジェンスの限界についても理解が必要です。デューデリジェンスは重要な手続ですが、万能なリスク排除手段ではなく、一定の限界を前提として利用する必要があります。

 

その上で、M&A経験を有する弁護士、公認会計士、税理士等の専門家から独立した助言を受けることが、実務上重要となります。

学習により重大トラブルを回避した事例とM&A顧問の意義

ある中小企業の経営者は、M&A仲介業者から提示された条件に当初は違和感を持たず、M&A契約締結に向けて交渉を進めていました。しかし、事前にM&Aに関する書籍やセミナー等で一定の知識を得ていたことから、株式価値評価、表明保証条項、経営者保証、役員退職慰労金、価格調整条項、デューデリジェンスなどについて、自ら疑問点を整理することができました。

 

その後、M&A顧問として弁護士が関与し、契約内容の整理やリスク分析を行った結果、経営者保証解除条件の不明確さや、広範な表明保証責任などの問題点が判明しました。最終的には、M&A契約条件の修正が行われ、重大なM&Aトラブルを回避することができました。

 

このように、M&Aにおいては、単に専門家へ依頼するだけではなく、経営者自身が一定の知識を持ち、主体的に意思決定へ関与することが重要となります。また、外部専門家は、契約書の作成のみを目的とするものではなく、M&Aプロセス全体におけるリスク把握と意思決定支援という役割を有しています。

まとめ

中小企業のM&Aでは、想定外のトラブルを完全に排除することは困難です。しかし、M&Aの基本構造や典型的M&Aトラブルを理解しておくことで、重大なリスクを回避できる可能性は高まります。

 

また、M&Aでは、売主、買主、M&A仲介業者、専門家の間で情報量や経験値に差が存在することも少なくありません。そのため、経営者自身がM&Aについて学び、主体的に判断する姿勢が重要となります。

 

M&A顧問を含む外部専門家の助言を活用しながら、契約内容やリスク構造を理解した上でM&Aを進めることが、後悔の少ないM&Aにつながるものと思われます。

 

 

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士
土屋 勝裕

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧