「この家でずっと暮らすと思っていた」4LDK戸建てでの生活
山本さん(仮名・68歳)は妻とともに、30年以上前に購入した4LDKの戸建てで暮らしていました。子ども2人を育て上げた家で、長く住み慣れた場所でした。
「この家を出るなんて、正直考えたこともありませんでした」
夫婦の年金収入は月22万円ほど。住宅ローンは完済しており、表面的には「住居費の負担は少ない」状態でした。しかし、実際にはさまざまな支出が重なっていました。
まず、建物の老朽化です。外壁の補修、屋根の点検、給湯器の交換など、定期的な修繕が必要でした。
「一度に数十万円単位で出ていくこともありました。先延ばしにすると、逆に大きな出費になるので避けられませんでした」
さらに、日常の管理も負担になっていました。庭の手入れ、掃除、階段の上り下り。若い頃は気にならなかったことが、少しずつ重く感じられるようになっていきます。
「部屋が余っているのに、掃除だけは全部やらなきゃいけない。だんだん“広さが負担”に変わっていきました」
子どもたちはすでに独立し、家を訪れる機会も減っていました。それでも夫婦は、「ここで暮らし続けるのが当たり前」と思っていたといいます。
転機となったのは、ある年の冬でした。給湯器が故障し、交換費用として約40万円が必要になったのです。
「そのとき初めて、“この家を維持すること自体が大きな負担なんだ”と実感しました」
同じ時期に、固定資産税や火災保険の更新も重なりました。単発の支出ではなく、「毎年のように何かが起きる」という感覚が強まっていったといいます。
総務省『家計調査(2025年)』が示すように、年金生活ではもともと支出が収入を上回る傾向があります。そこに住宅の維持費が加わると、貯蓄の取り崩しは想定より早く進みます。
「最初は“まだ大丈夫”と思っていたんです。でも、数年単位で見ると確実に減っているのが分かりました」
また、体力面の不安もありました。山本さんは膝に痛みを感じるようになり、階段の昇り降りがつらくなっていました。
「2階はほとんど使わなくなっていました。それでも掃除や換気はしないといけない。効率が悪いと分かっていても、どうにもならなかったんです」
その頃から、夫婦の間で「住み替え」の話が出るようになりました。ただし、民間の賃貸住宅は家賃が高く、年齢的に契約のハードルもあると感じていました。
「選択肢が限られていると感じていました。その中で現実的だったのが公営住宅でした」
