(※写真はイメージです/PIXTA)

定年後、生活環境を大きく変える選択は珍しくありません。特に地方移住は、住居費の軽減や自然に囲まれた暮らしへの期待から、多くの人が検討する選択肢です。しかし、環境が変わることで、これまで当たり前だった生活基盤も同時に変化します。国土交通省『令和5年度 高齢社会に関する意識調査(高齢期の住み替えについて)』では、住み替えにあたって「交通の利便性」や「買い物環境」への不安が挙げられています。住まいを変えることは、暮らしそのものを組み替えることでもあります。

「どうして誰にも言わなかったの?」…見えなかった限界

真理さんが「どうして言ってくれなかったの」と尋ねると、母の洋子さんは少し間を置いてこう答えたそうです。

 

「まだ大丈夫だと思っていたのよ」

 

その言葉に、真理さんは言葉を失いました。

 

「大丈夫じゃない状態になっているのに、それでも“大丈夫”と言ってしまうんだと思いました」

 

両親にとって、移住は自分たちで選んだ決断でした。だからこそ、「うまくいっていない」と認めることに抵抗があったのかもしれません。

 

「せっかく来たのに失敗だったとは言えない、という気持ちもあったと思います」

 

さらに、「子どもに心配をかけたくない」という思いもあったといいます。

 

「助けを求める前に、自分たちで何とかしようとしていたんだと思います」

 

その後、真理さんは生活の見直しを提案しました。宅配サービスの利用、定期的な見守りの導入、通院や買い物の支援など、できることを一つずつ整理していきました。

 

大きく何かがすぐに変わったわけではありません。それでも、真理さんは「あのとき見に行っていなかったら、もっと深刻になっていたと思う」と振り返ります。

 

地方移住は、環境の変化だけでなく、生活を支える仕組みそのものを変える選択です。

 

「暮らしは続いていくものだからこそ、変えたあとをどう支えるかが大事なんだと感じました」

 

理想から始まった生活でも、時間とともに現実とのズレは生まれます。そのズレに気づいたとき、誰にどう頼るか――それが、その後の暮らしを左右するのかもしれません。

 

 

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