「70歳まで我慢すれば…」将来の安心を信じて続けた節約生活
東京都内で暮らす伊藤さん(仮名・66歳)は、65歳で会社を定年退職しました。もともと老後資金には不安があり、「できるだけ年金額を増やしたい」と考えていたといいます。
「繰下げ受給をすれば、月25万円くらいにはなると聞いて。それなら老後は安心だと思いました」
伊藤さんは年金の受給を開始せず、70歳まで繰り下げることを決断しました。その代わり、生活は退職金と貯蓄を取り崩しながら成り立てることにしました。
しかし、その生活は想像以上に厳しいものでした。
「収入がゼロになると、お金の減り方が一気に現実的に見えてきました」
外食はほぼやめ、趣味だったゴルフも封印。スーパーでは値引きシールを待ち、光熱費も細かく管理する生活に変わりました。
総務省『家計調査(2025年)』によると、高齢単身無職世帯の可処分所得は月約11.8万円、消費支出は月約14.8万円で、平均で約3万円の赤字とされています。伊藤さんの場合、年金収入がないため、すべてを貯蓄で補う必要がありました。
「“今は我慢すればいい”と思っていました。70歳になれば楽になると信じていたので」
そうして、節約中心の生活を続けていたといいます。
転機となったのは、久しぶりに再会した同級生との会話でした。同じく定年を迎えた友人は、すでに年金を受給しながらパート勤務をしていました。
「お前、まだもらってないのか? 繰下げってやつか」
そう言われ、伊藤さんは自分の計画を説明しました。70歳まで待てば、受給額が大きく増えること。そのために、今は貯蓄を取り崩していること。
すると友人は、少し間を置いてこう言ったといいます。
「その前に、貯金が先に減るんじゃないか? それに、体が元気なうちに使うほうがいいんじゃないか」
その言葉に、伊藤さんは思わず言葉を失いました。
「今まで考えないようにしていたことを、はっきり言われた気がしました」
確かに、繰下げによる増額は魅力的です。しかし、その前提には「健康で長く受給できること」や「それまでの生活を維持できること」があります。
「もし70歳までに大きな病気をしたらどうなるのか。そこを深く考えていなかったと気づきました」
