合理的な暮らしの先で見えた孤独の正体
転機は、春先のある夜でした。仕事を終えて帰宅した真由さんは、玄関を開けた瞬間、部屋の静けさに息が詰まったといいます。
「急に、“この先もずっとこうなのかな”と思ってしまって」
誰とも話さず、誰にも会わず、きれいに整った部屋で食事をして眠る。その暮らしは自分で選んだもののはずでした。けれど、その夜は初めて「自由」と「孤独」が紙一重であることを痛感したそうです。
内閣府『孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和6年)』では、孤独感を「しばしばある・常にある」と答えた割合は全年齢で4.3%、「時々ある」は15.4%、「たまにある」が19.6%でした。数字だけ見れば少数に見えても、日々の生活の中で“時々ある”孤独感は決して特別なものではありません。
「足りないのは物じゃなかったんだと、そのとき分かりました。人とつながるための余白まで、自分で消してしまっていたのかもしれないって」
真由さんはその後、生活を少しずつ見直しました。大きな模様替えをしたわけではありません。ただ、来客用のマグカップを2つ買い足し、折りたたみ椅子をひとつ置きました。地元の読書会にも顔を出すようになり、断っていた会社の同僚との食事にも、たまに参加するようになったといいます。
「物を増やしたかったわけじゃないんです。誰かが入り込める余地を、少しだけ取り戻したかったんだと思います」
また、将来への備えについても考え方が変わりました。これまでは“身軽であること”ばかりを重視していましたが、体調を崩したときの備蓄や、いざというときに連絡できる関係の重要性も意識するようになったそうです。
「何も持たないことが悪いわけじゃない。でも削りすぎると、自分を支えるものまでなくなってしまうんですね」
ミニマリスト生活は、たしかに暮らしを整える力があります。けれど、人生の不安や孤独まで消してくれるわけではありません。真由さんが限界を感じたのは、部屋に物が少なかったからではなく、生活の中に“誰かとつながる余白”まで失っていたからでした。
真由さんの部屋はいまもシンプルです。ただ、以前より少しだけやわらかい空気が流れていると、本人は言います。
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