借りられる部屋がない…不動産会社「そういう時代なんです」
家探しを始めた佐藤さんの希望は、20年以上住み続けているこの街で、駅からは徒歩圏内、2LDK程度の広さ、家賃13万円程度の物件でした。まず駅前にある不動産会社を訪ねましたが、最初の1件目で受けた対応は、事実上の門前払いだったといいます。
「希望の条件を伝えると、担当者は『ご紹介できる物件はありません』と即答。理由を尋ねても、明確なことは教えてくれませんでした」
その後も申し込みはすべて審査落ち。
「自分なりに慎ましく、真面目に生きてきたつもりでした。それなのに、年齢だけで『お断り』を突きつけられているようで……とても惨めな気持ちになりました」
2件目の不動産会社でも担当者はやや消極的な雰囲気でしたが、それでも条件に合う物件を10件ほど紹介してくれました。佐藤さんは「貸してくれるところがあるなら、どこでもいい」という思いで申し込みましたが、すべて審査落ち。その後、1件だけ内見まで進んだ物件もありましたが、最終的に「総合的な判断」という言葉で断られました。
不動産会社の担当者は「孤独死や認知症によるトラブルなどの心配があり、貸主は独り身の高齢者というだけで警戒する」「今は家賃を上げても現役の共働き夫婦がすぐに申し込んでくる。貸主はリスクのある高齢者に貸すメリットがない」と実情を教えてくれました。
「担当の方は『佐藤さんが悪いのではなく、今はどこもそんな感じです』とおっしゃってくれましたが……。『この社会にあなたの居場所なんてない』と言われた気がして、どうしたらいいのか分からなくなりました」
子どもたちとの葛藤と「高齢者」という括り
家探しを始めて2、3カ月が経ち、佐藤さんは「普通の賃貸マンションに住むのは、もう不可能かもしれない」と考えるようになったといいます。そのような状況を知った子どもたちから、高齢者向け施設への入居を提案されます。
「子どもたちから『高齢者向け施設なら安心だよ』と勧められました。でも高齢者向け施設には抵抗がありました。私はこれまで通りの生活を続けたかっただけなのに、『高齢者』と一括りにされるのが、どうしても受け入れがたかったのです」
大阪の長男からは「お母さんに何かあっても、遠方にいる僕たちはすぐには動けない。施設に入ってくれると安心」と言われ、長女は東京まで足を運び、一緒に施設の見学に付き添ってくれました。子どもたちの安心と、自身の自立した生活のどちらを優先すべきか――。佐藤さんは悩みましたが、最終的には子どもたちの説得に応じる形で、施設への入居を決めました。
現在、佐藤さんは都内のサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)に入居しています。居室は以前の3LDKに比べれば非常にコンパクトですが、生活に必要な設備は整っています。24時間の見守りサービスがあり、希望すれば食事も提供されます。子どもたちは「これで安心だね」とホッとした様子だったといいます。しかし、佐藤さんの胸中には、複雑な思いが残っています。
「私は大きな病気をしたわけでもなく、家賃を滞納したわけでもない。ただ普通に暮らしたいだけだった。しかし高齢者というだけで、それが叶わなくなってしまった。もう普通の生活には戻れないんです」
