「移住して、自然に囲まれて暮らすはずが」…現実とのギャップ
「ここなら、穏やかに暮らしていけると思ったんです」
そう振り返るのは、元会社員の正明さん(仮名・67歳)と妻の由美子さん(仮名・65歳)です。
都内で長年暮らしてきた2人は、定年退職を機に地方移住を決意しました。退職金は約1,800万円。都内のマンションを売却し、地方で中古の一戸建てを購入しました。
「住宅ローンもなくなるし、生活費も抑えられると思っていました」
移住当初の生活は、確かに新鮮だったといいます。静かな環境、広い庭、四季の変化。都市部では得られなかった豊かさがありました。
「朝、鳥の声で目が覚めるんです。最初は本当に気持ちよくて」
しかし、その印象は徐々に変わっていきました。
最初に感じたのは、「距離」でした。スーパーや病院、役所など、生活に必要な施設がすべて車での移動を前提としていたのです。
「車がないと何もできない。しかも、歳を重ねるほど運転も不安になります」
由美子さんは、運転に自信がなく、日常の買い物も正明さんに頼るようになっていきました。
「自分一人で動けないというのが、思った以上にストレスでした」
さらに、医療面の不安もありました。近隣には小さな診療所はあるものの、専門的な検査や治療が必要な場合は、車で1時間以上かかる都市部の病院まで行かなければなりません。
「何かあったときにすぐ診てもらえない、というのが怖くなりました」
生活の利便性だけでなく、人間関係にも戸惑いがありました。地域のつながりは強く、行事や近所付き合いも頻繁にあります。良くも悪くも“距離が近い”環境でした。
「最初は歓迎してもらいましたが、その分、関わりも濃いんです。気を使う場面も多くて」
都市部のように、適度な距離感で暮らすことは難しかったといいます。
「静かに暮らしたかったはずなのに、逆に疲れることもありました」
