大学進学のため、多くの家庭が利用する奨学金。なかでもJASSO(日本学生支援機構)の貸与型奨学金は、今や学生の2人に1人以上が利用する“当たり前”の存在になっています。しかし、その返済は卒業後15年、20年と長期に及ぶことも珍しくありません。そして近年、表面化しつつあるのが、「誰が返すのか」をめぐる親子間の衝突。進学した本人が返すべきなのか、それとも十分な学費を用意できなかった親にも責任があるのか――事例とともに見ていきましょう。

定年まであと4年、老後の見通しはたっていたはずが…

地方都市で暮らす中原邦夫さん(仮名・61歳)は、地元の建材メーカーに勤める会社員です。営業職として長年働いてきましたが、60歳で再雇用となってからは年収が大きく下がり、現在は380万円ほど。妻もパート勤務で、収入は年100万円前後です。

 

住宅ローンはようやく完済。しかし、収入減に加え物価高の影響も大きく、「老後に向けてどれだけ残せるか」を夫婦で気にするように。それでも中原さんには、小さな楽しみがありました。

 

「65歳になったら完全に仕事を辞めて、少しのんびりしたいと思っていたんです。旅行とか、釣りとかをしてね」

 

60歳で受け取った退職金と預貯金で1,800万円ほど。65歳から受け取る予定の年金は、夫婦で月23万円程度です。余裕のある老後とまではいきませんが、「慎ましく暮らせば何とかなるのではないか」。そう考えていました。

「もう奨学金は返せない」息子からの電話

大学卒業後、首都圏のIT企業に就職した次男。学生時代には、日本学生支援機構(JASSO)の貸与型奨学金を利用。月10万円を4年間借り、総額は約480万円にのぼります。

 

当時、中原さん夫婦には住宅ローンと教育費の負担が重くのしかかっていました。 「大学には行かせたい。でも、現実的に全部は出せない」 と、奨学金を利用することに。

 

就職後は、毎月2万円以上を返済しながら、県外で一人暮らしをしていた次男。しかし、入社から数年後、状況が一変します。

 

慢性的な長時間労働で心身のバランスを崩し、退職。転職活動もうまくいかず、現在は単発の仕事やアルバイトで食いつなぐ日々。家賃や国民健康保険料を払うだけで精一杯の状態になっていました。

 

そんなある日、次男から電話がかかってきたのです。

 

「もう奨学金は返せない」

 

「払えないって…どうするんだ、お前」

 

すると、こう続けたといいます。

 

「いまは、それどころじゃないんだ。そもそも18歳の時に、“20年近く毎月返済が続く”って、本当に理解できてたと思う? 気づいたら新卒の時点で500万円近い借金を背負わされてた俺の身になってよ」

 

中原さんも思わず語気を強めました。

 

「でも、大学に行きたいって決めたのはお前だろ。自分のための進学だったんだから、返済するのは当然じゃないのか」

 

「大学に行くのが当たり前の時代に、『子どもに大学資金を残せなかった親側に問題はなかった』っていえるの? 父さんは」

 

息子の言葉に、思わず声を失ったといいます。

 

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