今回は、10年経っても解決しない、4億円の遺産をめぐる争いの事例を見ていきます。※本連載は、相続専門の弁護士である大竹夏夫氏の著書、『老活弁護士®が教えます!わかりやすい遺言書の書き方』(週刊住宅新聞社)の中から一部を抜粋し、いわゆる「争族」を防ぐための遺言書活用の留意点を見ていきます。

ほとんどの話し合いがないまま、家庭裁判所の調停へ

私が実際に扱った相続案件でもっとも長いケースは、亡くなってからとうとう10年が経ちました。まだ終わっていません。

 

平成16年にご主人が亡くなられました。遺産は、自宅のほか、賃貸マンション1棟、賃貸アパート3棟、それに貸し駐車場や農地、預貯金など、おおよそ4億円でした。

 

ほとんど話合いがないまま、家庭裁判所の調停になりました。しかし、調停も3か月で終わりになり、訴訟が始まってしまいました。子どもや孫名義の預貯金がたくさんあったり、使途不明金があったりしたからです。

 

この訴訟がずいぶんと時間がかかりました。裁判所が地方だったため、私は40回以上も出張しました。訴訟の途中で、和解の話合いもしました。裁判所で和解がまとまれば、その時点で解決します。しかし、和解はまとまりませんでした。

「主人が遺言書を書いておいてくれたら・・・」

訴訟手続は粛々と進められ、5年目にして、とうとう判決がでました。しかし、裁判はそれだけでは終わりません。控訴という不服申立ての手続があります。判決に不服がある人がいれば、控訴をしてもう一度調べて判断してもらうことができます。今度は高等裁判所です。東京高等裁判所で訴訟が始まりました。通常であれば半年前後で終わるのですが、やはりここでも和解の話合いが行われたこともあり、約1年間はかかりました。高等裁判所の判決が出ました。遺産をめぐる問題はこれで決着が着きました。

 

しかし、裁判が終わっても、相続が解決したわけではありません。遺産について、誰が何を相続するのかを話し合って決めないといけません。そのために、2度目の調停が始まりました。ここでもやはり、分け方について話合いは難航し、とうとう審判が下されることになりました。2度目の調停と審判も、おおよそ2年かかりました。

 

たくさんの時間と費用をかけて争わなければならない。悲しい、虚しい現実です。「(主人が)遺言書を書いておいてくれていたら・・・」と嘆く奥様がかわいそうでした。

本連載は、2016年6月29日刊行の書籍『老活弁護士が教えます!わかりやすい遺言書の書き方』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

老活弁護士®が教えます! わかりやすい遺言書の書き方

老活弁護士®が教えます! わかりやすい遺言書の書き方

大竹 夏夫

週刊住宅新聞社

「老活」は、「老後に備える準備活動」です。「老活」のなかでも、とても重要なのが「遺言書の作成」です。 自分が残す財産やその他のことを死ぬ前に決めておく。これは実は当たり前のことだと思うのです。 残された人のため…

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