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世界の税金はどうなっているのか 富裕層の相続戦略シリーズ【国内編】
矢内一好(著)+ゴールドオンライン(編集)
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GDP世界4位に匹敵――カリフォルニア経済の圧倒的規模
米国50州の州別GDPを比較すると、カリフォルニア州は第1位であり、第2位のテキサス州、第3位のニューヨーク州を大きく引き離しています。とりわけニューヨーク州と比べると、その規模は約2倍に達しています。
さらに2024年時点では、カリフォルニア州のGDPは約4兆1,000億ドルにのぼり、日本の約4兆200億ドルを上回る水準となりました。単独の州でありながら、世界有数の国家と肩を並べる経済規模を有している点は、まさに異例といえるでしょう。
IT、エンターテインメント、金融、農業など多様な産業が集積し、成長を続けてきた結果ではありますが、この「巨大経済」は同時に、特有の税制リスクも内包しています。
税制転換の原点「提案13号」と住民反発
カリフォルニア州の税制を語るうえで避けて通れないのが、1970年代に成立した「提案13号(Proposition 13)」です。
当時、州は財政悪化を背景に固定資産税の引き上げを進めましたが、これに対して住民の強い反発が起こりました。その結果、住民側から提案13号が発議され、住民投票によって可決されるに至ります。
この制度により、固定資産税率は大幅に制限され、課税評価額の上昇にも上限が設けられました。結果として、地方財政は安定性を失い、州全体の税収構造にも大きな影響を与えることとなります。
つまり、財政再建を目的とした増税が、逆に長期的な税収制約を生むという構図がここで形成されたのです。
金融危機で露呈した“直接税依存”の弱点
この税制構造の歪みが顕在化したのが、2000年代後半の金融危機です。
アーノルド・シュワルツェネッガー知事の在任期間中、サブプライムローン問題やリーマン・ショックの影響を受け、州の財政赤字は急速に拡大しました。
その要因の一つとして指摘されているのが、所得税などの「直接税」への依存度の高さです。景気拡大局面では税収が大きく伸びる一方で、景気後退局面では富裕層の所得減少とともに税収が急減するという、極めて変動の大きい構造となっていました。
固定資産税の制約と相まって、安定財源を欠く税制が、危機時における財政の脆弱性を一層際立たせたといえます。
高額不動産課税と富裕層の行動変化
近年、こうした財政課題に対応するため、カリフォルニア州およびロサンゼルスでは富裕層を対象とした課税強化が進められています。
その一例が、高額不動産の譲渡に対する課税です。不動産の譲渡価格が500万ドルまたは1,000万ドルを超える場合に適用され、税率は最大で5.95%に達します。これは所得税ではなく、不動産取引に対して課される間接税の一種です。
しかし、この制度の導入に際しては、典型的な「行動変容」が確認されました。施行前には課税を回避するための駆け込み売却が相次ぎ、施行後も不動産と動産を分けて譲渡するなど、課税負担を軽減するスキームが模索されたとされています。
税率を引き上げれば税収が増えるとは限らず、納税者の行動変化によって課税ベースそのものが縮小する可能性があることを示す事例といえるでしょう。
富裕税構想が招く「州外流出」という現実
そして現在、新たな論点として浮上しているのが、純資産10億ドル超の富裕層に対し、一度限りで5%の資産課税を行う「富裕税」構想です。
理論上は、極めて高い担税力を持つ層に限定した課税であり、財政への寄与も期待されます。しかし一方で、過去の高額不動産課税の事例が示すとおり、富裕層は税制の変化に対して極めて敏感に反応します。
とりわけ米国では州間の移動が比較的容易であり、所得税のない州や低税率の州へ居住地を移すことは現実的な選択肢です。
そのため、富裕税の導入が進めば、短期的な税収増の一方で、中長期的には税源そのものの流出を招く可能性も否定できません。
豊かさの裏で問われる税制の持続可能性
カリフォルニア州の事例は、「豊かな経済」と「安定した税制」が必ずしも一致しないことを示しています。
固定資産税を抑制した結果、直接税への依存が高まり、その直接税を強化すれば、今度は富裕層の流出リスクが高まる――。このように、税制は常にトレードオフの中で設計されざるを得ません。
重要なのは、単なる税率の高低ではなく、「税源の持続可能性」と「納税者の行動」を踏まえた制度設計です。
カリフォルニア州が直面している課題は、決して一地域の問題ではありません。グローバルに資産と人材が移動する時代において、各国・各地域が共通して向き合うべきテーマであるといえるでしょう。
矢内 一好
国際課税研究所
首席研究員
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