在宅医全員に求められる緩和ケア・医療の知識と技術
よく知られていることですが、緩和ケアとは患者さんの苦痛を和らげて、生活の質を高める医療・ケアのことで、病気そのものを治す医療行為と両輪になって、患者さんを支えていくものです。
言葉を変えると、痛みや不安を軽くして、その人らしく過ごせるように支える医療です。
そのため、患者さんが在宅医療を受けるようになった時には、病気の初期段階から治療的医療とともに始まっていた緩和医療が、集大成の時期になってきている、といえます。
在宅医療の中心は、緩和ケア・緩和医療だと言っても過言ではありません。そのため、様々なバックボーンを持っている医師が在宅医として活動するようになった場合には、全員が緩和ケア・緩和医療の知識や技術を身に付けていく必要があります。
緩和ケアは、今までの自分の専門とは違うからといって、誰か他の医師にコンサルすればいい、という問題ではありません。
また、「今まで外科医として多少なりとも緩和医療に携わってきたからなんとかなるだろう」と聞きかじりの知識で済ませられるほど甘いものではありません。
在宅医療に参入しようとするなら、覚悟を持って緩和ケア・緩和医療に取り組む必要があります。
在宅緩和ケアの手順①…まずは「誤った不安」を取り除く
緩和ケアを円滑に行うために、まずは患者さんのなかにある「痛み止めを使うと寿命が縮まる、あるいは意識がぼんやりして家族との時間が失われるから我慢する」という誤った不安を取り除くことから始めます。
日本人には、昔からこのような「我慢は美徳」という精神が根付いており、これが時として、緩和医療を進めるうえでの障害となります。
そのため、緩和ケアへの不安を軽減するために、以下のことを、患者さん本人やご家族にお伝えするようにしています。
1.「痛みがあると、どうしても不安になってきますよね。痛みを取り除くことによって前向きな考えを持つことができるようになりますよ」
2.「痛みがあると、夜、ゆっくり眠れないですよね。痛みを取って、ゆっくり寝ることが体力を回復させ、免疫力も高めますよ」
3.「痛みがあると、食欲が落ちてしまいますよね。ですから痛みを取って、口に合ったものをしっかり取りましょう。そうすると少し元気になりますよ」
4.「医療用のオピオイド、つまり医療用の麻薬は痛みを取り除くうえで、とても重要です。そして医師の管理のもとで使用すると、怖いことは全くありません。便秘になりやすかったり、ときとして眠くなったり、軽い吐き気をもよおすことがあったりするくらいです。安心して使ってください」
このように段階を踏んだ対話を通じて、痛みを取ることの大切さと、医療用オピオイドへの不安感を和らげ、少しずつでも緩和ケアへの考えが前向きになるような取り組みが重要となります。
在宅緩和ケアの手順②…前医のケア内容の聞き取りと現状把握
次に大事な手順としては、前医での緩和ケアの内容を聞き取り、その結果としての現在の状態をしっかりと把握することです。この段階で、とくに重要なのは〈経口薬がいつまで内服可能か〉を推測することです。
緩和ケアの薬剤は、経口薬から始めるのが原則のため、入院中に経口オピオイドを投与されている患者さんが多いです。しかし在宅へと移行した際には、全身状態が悪化し、薬を飲むことができなくなる方も少なくありません。その場合は、痛みも強くなっている時期のため、急いで代替投与法を考えます。
現在は、皮膚に貼ることで、それなりの効果を発揮する鎮痛薬がありますから、それに変更することも一つの手段です。また座薬を使うこともいいでしょう。
そして、やはり最後の手段としての投与法は、医療用オピオイドの持続皮下注射、あるいは静注です。
これを行うには、薬剤注入用のポンプの手配をしてくれる業者、無菌調剤を行ってくれる薬局との連携、全身状態を常に観察してくれる訪問看護師との連携が欠かせません。
これらの投与経路、薬剤の選択などを、入院中の様子などからある程度推測して、準備しておきます。
そして、痛みや苦しみの種類と程度を、できるだけ定量的に評価します。痛みのない状態を0点、想像し得る最も強い痛みの状態を10点として、現在の痛みは何点か、患者さん自身に点数付けをしてもらうNRS(Numerical Rating Scale)が有名でよく使われます。
私は緩和ケアの際、このNRSを0点か1点程度に抑えることをいつも目標にしています。
先に書いたように、なかなか痛みを訴えない患者さんには、このように点数を質問するとそれをきっかけに痛みについて語り始めてくれます。
このような使い方をぜひ意識してみてください。
がんの終末期の自宅療養期間は「痛みのコントロール」に重点
がんの終末期は、他の疾患で要介護状態から死に至るまでの時間と比較して、極端に短いのは知られています。
実際私のグループでも、がんのエンドステージだということでご紹介いただいた患者さんのうち、60%の方が1ヵ月以内に死亡し、90%の方が3ヵ月以内にお亡くなりになります。
その短い間に、前項で述べたような患者さんの思い込みなどを是正し、痛みの程度を評価し、必要に応じて、経口薬から貼付薬、座薬、更には持続皮下注に投与経路を変更していくので、大変に密度の濃い診療をしなければいけません。
グループ内の医師には強くお願いしていることでもありますが、少し痛みが出てきたと言い始めた患者さんに対して、「様子を見ましょう」という言動はしてはいけないのです。
痛みの出現を患者さんが自ら言い出したときは、実際には相当な痛みであることが多く、NRSでは5点前後に達していると考えられます。ですから、そのような痛みの訴えがあったときには、すぐにその場で痛みを評価し、2点以上だったら鎮痛剤を開始しないといけません。
以前は強オピオイドの前に、弱オピオイドを使用することがガイドラインとしてありましたが、現在は、痛みの程度によっては強オピオイドから始めることも推奨されています。
長くても数ヵ月しかない自宅療養期間を、痛みで無駄にすることがないようにしなければいけません。1日1日の重みが違うのです。
また、この初期に痛みのコントロールが上手く行かないと、病院に再入院してしまうきっかけにすらなってしまいます。素早い痛みのコントロールが必須です。
症状の緩和が期待できる「医師による語りかけ」
緩和ケアは、薬物療法や、リハビリなどの働きかけなどによって行われますが、私たち、現場をリードする医師は、その他にもいろいろなことに気を配ると、予期せぬほどの効果をもたらすことがあります。
たとえば、診察の時の医師の表情。言うまでもなく、穏やかな笑みをたたえることは大事です。また声は、できるだけ落ち着いた声で、ゆっくり話すことが重要です。その時には、目をしっかり見つめることが大切です。
私は患者さんと接する際、全神経を集中し、穏やかなエネルギーが伝わるような心持ちでお話を聞くようにしています。
また、家族よりもできるだけご本人に話しかけることも意識しています。
このような工夫によって、かなりの症状が緩和されることが期待できます。
患者さんの物語をお聞きするのも、とても効果的です。その方がどのような人生を歩み、今何を大切に思っているのかという「ナラティブ(物語)」に耳を傾けることは、単なる世間話ではありません。
心の奥底にある不安や後悔が解き放たれることで、不思議と肉体的な痛みまで和らぐことが多々あります。これこそが、多面的な苦痛を癒す緩和ケアの醍醐味です。
緩和ケアは、とても奥深く、やりがいのある領域です。皆で極めていきましょう。
野末 睦
医師
医療法人 あい友会 理事長
【注目のセミナー情報】
【国内不動産】4月3日(金)オンライン開催
《初期投資1,500万円台~・想定利回り16%超》
「トレーラーハウス投資」という選択肢
【国内不動産】4月4日(土)オンライン開催
《東京23区・新築RC一棟投資》
自己資金を抑えて融資を受ける「ローン戦略」とは?
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
\4月14日(火)ライブ配信/
「名義預金」判定のポイント
相続税の税務調査の実態と対処方法
指摘率トップの理由とは
富裕層だけが知っている資産防衛術のトレンドをお届け!
>>カメハメハ倶楽部<<
