病院での死亡率は2005年がピーク
在宅医療、訪問診療の世界もどんどん変わってきています。これらの変化を的確に捉え、自分たちが現時点で提供する在宅医療、訪問診療の目指すところをまずは明確にしつつ、さらには将来必ず到来する世の中のニーズの変化にも適宜対応していくという柔軟性がとても重要です。
以下のグラフを見ると、第二次世界大戦直後、1951年においては、自宅でお亡くなりになる率が82.5%でした。その後、自宅での死亡率は一貫して低下し、代わりに病院での死亡が増え、1977年には両者の割合が逆転、2005年には病院での死亡が79.8%と最高値を示しています。まさに自宅での死亡と病院での死亡が交差してX型を示しています。しかしこの2005年を頂点として、病院での死亡率が減少していきます。
なぜ、病院での死亡率が2005年をピークに減少してきたのでしょうか。いくつか要因があると思いますが、患者さん側の要因としては、病院という非日常の場で最期を迎えることに対しての絶望感を何とかしたい、住み慣れた家で最期を迎えたいと考える人が多くなったということだと思います。行政側の要因としては、医療費高騰に対する対策として、医療機能の分化、特に急性期治療に携わる病院での入院期間短縮の方針が徹底されたということだと思います。
ここ20年の変化…自宅での死亡率、2024年には17%へ上昇
そして、2005年を過ぎて、病院死の割合が2022年までなだらかに減ってきて、64.5%となり、それに対して自宅での死亡率が17%まで上昇してきています。
また特筆すべきは、老人ホームでの死亡が、やはり2005年ぐらいから一貫して増え、2024年には17%に達しています。
この大きな変化の元になったのは、2008年に社会保障国民会議でまとめられた最終報告です※。
※ https://www.cao.go.jp/zei-cho/history/1996-2009/gijiroku/kikaku/2008/pdf/k26kai26-6-1.pdf
ここで、在宅医療、訪問介護の充実が謳われ、それに基づいて、在宅医療、訪問診療の制度的充実が図られ、質、量ともに充実が図られてきたわけです。
加えて、国民の死生観も大きく変わってきたと思います。その変化を日本全体に自覚させ、さらにその変化を加速させたのが、正月気分がまだ抜けきらない2016年1月5日に新聞4紙全国版に2面打ち抜きで掲載された、宝島社の広告「死ぬ時ぐらい好きにさせてよ」です。
この広告は、ジョン・エヴァレット・ミレイの《オフィーリア》 という名画をモチーフにして、水面に浮かぶ女性を樹木希林さんにしています。そしてこのセリフを語らせています。
これを目にした私は、正月気分も吹っ飛び、背筋に冷たいものを感じながらも、時代の変化のうねりみたいなものを感じました。「お正月に死について語る」。死はタブーではなく、死に方を選ぶ時代に入ったということを感じたのでした。
現時点の在宅医療で必要なこと
このように在宅で最期を迎える人は、とても多くなってきましたが、在宅医療は、元々は患者さんの人生の物語をたどる医療が中心でした。つまり、患者さんの人間性を回復しながら、住み慣れた場所で、家族に囲まれて最期を迎えるという姿です。物語を語るということで、「ナラティブな在宅医療」ととらえられることもあります。現在も、このような側面はとても大事で、在宅医療の本流であると言えますが、これだけではいろいろな面で足りなくなってきているのも事実です。
在宅医療初診の患者さんのもとへ伺った時、稀ではありますが、「医者なんか来なくていい。病院でもう何もできないと見捨てられて退院してきたんだ。病院で何もできないと言われたのに、家で何かできるはずがない。もう帰ってくれ」などと言われることがあります。
このような時は、そもそも話を聞くことさえできません。ナラティブな在宅医療の出番はもう少し先なのです。まずは具体的に、何か物理的な医療行為が必要になります。食事のことだとか、痛みのコントロールのことだとか、体のだるさを取る方法だとか。口の中の乾燥をとる方法だとか。場合によっては爪のお手入れなども必要になってくるかもしれません。これらの在宅医療における、特徴的で専門的な知識、技術については、次回から何回かにわたってお話ししていきます。
今日は、加えて最近関心が集まってきている概念、Hospital at Homeについてお伝えします。
Hospital at Home…「入院レベルの医療」を自宅で提供
Hospital at Homeとは、シンプルに言うと入院レベルの医療を、自宅で提供する仕組みのことです。提供される医療の種類は多岐に渡りますが、たとえば医療用オピオイドの皮下への持続注射を含むがんの痛みに対する緩和医療。誤嚥性肺炎に対する抗菌剤投与、酸素投与などを含む治療。褥瘡を含む、時として電気メスを使用する、様々な創傷に対しての治療。神経難病患者さんに対して、人工呼吸器を用いた人工呼吸。
挙げるとキリがないですが、前項で触れたナラティブな在宅医療だけでなく、このような、病院での入院医療までは及ばないものの、そのすぐ手前ぐらいまでの医療処置を行うことが求められ、実際に提供でき始めているのです。
ある面では、病院での入院医療を凌駕する結果を出せることもあります。たとえば、褥瘡がある患者さんが誤嚥性肺炎になって、入院治療を受けた場合、誤嚥性肺炎は治癒したとしても、褥瘡の治療はほとんど行ってもらえないので、褥瘡はそのまま、あるいは悪化した状態で退院してきます。また関節も動きにくくなり、栄養状態も悪化してしまう場合も少なくありません。
主たる一つの病気の治療には力を注いでくれますが、そのほかの病気や全身の栄養状態などのコンディションまではなかなか気が回らない状況があります。その点在宅医療は、環境を変えずに新たな治療を加えることができるので、全体として良好な状態をキープできる可能性が高まります。
また、急性期病床を真に必要とする患者さんのために確保することにも繋がります。「心不全パンデミック」と称される通り、現在は高齢の心不全の患者さんが病床を圧迫している状況にあります。この方たちを在宅で診ていくことができれば、医療資源の有効利用につながっていくことでしょう。
このように、現在の、そしてこれからの在宅医療では、ナラティブな在宅医療だけでは到底対処できない状況になっていくでしょう。個人の開業医レベルではなかなか対応できないか、私生活に多くの犠牲を払って行うしかない状況です。このことを念頭に置いておきましょう。
野末 睦
医師
医療法人 あい友会 理事長
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