病床で妻が口にした「生まれ変わったら…」
この1ヵ月間の旅は、ただの一過性の思い出づくりには留まりませんでした。帰国後、24年間にわたる夫婦の生活のなかで、ヨーロッパでの出来事は幾度となく会話のネタになりました。
「テレビで現地の風景が映るたびに、『あのとき道に迷って大喧嘩したわね』『パンクを直してくれた親切な人がいたね』と話していました。楽しいことも苦い経験も、すべてが私たち夫婦の24年間を彩る大切な宝物になったんです」
Nさんの妻が病床に伏してからも、二人は旅の思い出を語り合いました。そして、ベッドの上で、Nさんにこう微笑んだといいます。
「生まれ変わってまた夫婦になったら、今度はアメリカを横断しましょうね」
その言葉を聞いて、Nさんは涙が止まらなかったと振り返ります。もしあのとき、将来への漠然とした不安からお金を使わず貯め込んでいたら、これほど豊かな時間を共有し、笑顔で語り合える最期を迎えることはできなかったでしょう。
「確かにお金は大切です。でも、経験にお金を使ったからこそ、私たちは何にも代えられない素晴らしい時間を手に入れられました。だからこそ、同世代の人たちにも『元気なうちに旅に出てほしい』と伝えたいです」
