地方移住した両親…8ヵ月後、娘が見た異変
「都内にいる必要はもうないから……、両親はそう言っていました」
そう話すのは、関東近郊に住む真由美さん(仮名・45歳)です。両親は父・和夫さん、母・澄子さん(ともに70歳)。定年退職を機に、夫婦は都内の持ち家マンションを売却し、地方都市郊外の中古戸建てへ移住しました。
年金見込み額は夫婦で月18万円ほど。退職金は1,400万円あり、「家を小さくして、生活費も抑えれば、老後は何とかなる」と考えたといいます。購入した家は築年数こそ古いものの、庭付きで価格も手ごろでした。
「空気もきれいだし、畑もある。これでのんびり暮らせる」
移住直後、両親はそう話していたといいます。
異変に気づいたのは、真由美さんが移住から8ヵ月後に実家を訪ねたときでした。
玄関を開けた瞬間、むっとするようなこもった空気が流れてきました。庭は伸びた草で埋まり、居間には開けたままの段ボール箱とスーパーの総菜容器が積み重なっています。テーブルの上には未開封の郵便物がいくつも重なり、部屋の隅には灯油のポリタンクが置かれたままでした。
「え……どうしたの、この家」
真由美さんが言葉を失ったのは、家が散らかっていたからだけではありません。両親の表情が、移住前とはまるで違って見えたからです。
父は「ちょっと膝が痛くてね」と苦笑し、母は「買い物も病院も遠いし、最近は疲れちゃって」と小さく答えました。
この家では、最寄りのスーパーまで車で15分、総合病院までは30分以上かかりました。移住前から車が必要なこと自体は分かっていたものの、実際に暮らしてみると負担は想像以上だったようです。
ガソリン代、任意保険、車検、タイヤ交換。さらに冬場は灯油代もかかります。家賃はなくなっても、戸建ての維持費や移動費が新たにのしかかりました。
「安く暮らせると思っていたのに、毎月じわじわ出ていくお金が多いんです」
国土交通省の資料でも、高齢者の住み替え意向の背景として、買い物や交通の不便、住宅の住みにくさが挙げられています。高齢になるほど、家の広さや自然環境より、移動のしやすさが生活の質を左右しやすくなります。
