都内なのに、実家の査定額が900万円になった理由
退院後、田中さんは今後の生活を考えはじめました。特に気になったのが、自宅の石段。以前はなんとも思わなかった段差ですが、歩行が不安定になったいまでは外出のたびに慎重になります。
もし再び体調を崩したらどうなるのか——。そこで検討したのが、見守りサービスのあるサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)です。自宅近くに建築中の施設を思い出し、見学へ。充実した設備や運動プログラムに、田中さんは好印象を持ちますが、費用を聞いて驚きました。賃料前払い方式の場合、前払賃料は約1,400万円。さらに管理費やサービス費などを含めると、月額費用は15万円ほどかかるといいます。
ですが、田中さんは「家を売れば問題ない」と考えました。そこで、不動産会社へ相談してみたところ、思いのほか厳しい現実を突きつけられます。相続した自宅は、いわゆる再建築不可物件だったのです。敷地が道路に十分面していないため、現行の建築基準法上、建て替えができないと告げられました。建て替えができないため、一般的な住宅より買い手がつきにくいそうです。査定額は約900万円でした。
「都内だからもっと値段がつくと思っていました」
さらに売却には時間がかかる可能性もあるといいます。一方で、退職金は車の買い替えや旅行、生活費などで少しずつ使い、現在の貯蓄は600万円ほどになっていました。サ高住の前払賃料をすぐに用意するのは難しい状況でした。
では、前払い方式をあきらめ、月払いで入居するとどうなるのか。敷金は約72万円、月額費用は管理費・サービス費込みで40万円ほどになるようです。田中さんの年金収入は月30万円。月払い方式では、毎月10万円前後の赤字が生じる計算です。貯蓄600万円を取り崩しながら生活すれば、5年足らずで底をつきます。
「入居できない」のではなく、「入居しても長く住み続けられない」——これが田中さんが直面した本当の問題でした。
住宅ローンがなく、年金も比較的多い。それでも、住まいの条件によって老後の選択肢が狭まることがあります。
こうした問題は田中さんだけの話ではありません。都市部では、相続した実家が再建築不可の条件を抱えているケースが度々見受けられます。「持ち家があれば安心」という感覚が、老後の選択肢を逆に狭めてしまうことがあるのです。
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