過去の「年金未納」を埋めようとしたが…
佐藤健一さん(仮名/65歳)は、地方の清掃会社で働いています。年金額は佐藤さん一人の分だけで月14万円と、老後資金に大きな余裕があるわけではありません。そのため、「働けるうちはできるだけ働き続けたい」と考えていました。
佐藤さんの人生に転機が訪れたのは、リーマン・ショックの直後のこと。当時勤務していた会社が倒産し、突然無職になってしまったのです。その後の約3年間は、複数のアルバイトを掛け持ちし、なんとか生活をつなぎました。子どもの大学進学費用も重なった時期だったため、家計は火の車。「いまを生きることで精一杯だった」と、当時の苦労を振り返ります。
目の前の生活費を優先せざるを得なかった佐藤さんにとって、その時期は年金保険料の支払いが二の次になりました。結果として、約3年間の未納期間が生じます。
その後、現在の会社に就職し、生活は徐々に安定。しかし60歳を過ぎ、老後が現実味を帯びてくるなかで、過去の未納期間のことが頭をよぎりました。
「いまからでも払えば、少しは年金が増えるはずだ」。佐藤さんは、未納分をあとから納める「追納」の相談をするため、年金事務所へ向かいました。しかし、窓口の担当者から告げられたのは、予想もしなかった言葉だったのです。
「佐藤さんの場合、支払う必要はありませんよ」
「払わなくていい」と言われた理由
耳を疑う佐藤さんに対し、担当者はこう説明しました。
「佐藤さんは現在、勤務先で厚生年金に加入されていますよね。“経過的加算”という制度で、わかりやすくいえば未納分をもう補填できているということです」
通常、国民年金(老齢基礎年金)は20歳から60歳までの40年間(480ヵ月)保険料を納めることで満額受給できます。60歳時点で未納がある場合、通常は「任意加入」して不足分を埋めるのが一般的です。ところが、佐藤さんのように60歳以降も会社員として厚生年金に加入して働く場合、追納の必要がなくなることがあります。
何度も聞き返した佐藤さんでしたが、制度の仕組みは簡単ではなく、すぐに理解することはできませんでした。ただ、「未納分を払わなくても、将来の年金は未納分を払ったとみなされて受け取れる」という説明を受け、ひとまず安堵。結果として、追納を予定していた約50万円は支払わずに済むことに。
「払わなくていいといわれて、最初は本当にそれで大丈夫なのかと疑いましたが……。でも、手元に資金を残せたことで、当面の生活に対する安心感は大きかったです」と、笑っていました。


