繰上げ受給が「合理的」といえる理由
さらに損益分岐点にも注意が必要です。60歳から受給した場合と65歳から受給した場合の総額が並ぶのは、およそ79歳となります。つまり79歳より早く亡くなってしまうと、60歳から受け取っていたほうが、受給総額が多くなるというわけです。
ちなみに、70歳開始なら81歳以降、75歳開始なら86歳以降で65歳開始より総額が多くなります。
長生きすれば最終的には得になりますが、健康寿命が70代前半であることを考えると、体が元気な60代のうちにキャッシュを受け取って豊かな人生に使ったほうが合理的といえるでしょう。
繰上げ受給は「物価高に対する資産価値の保全」の効果も
近年、物価の上昇が続いています。日本銀行は消費者物価の前年比上昇率2%を目標に掲げていますが、実際に近年の上昇は著しいです。
こうしたなか、公的年金には物価や賃金の変動に合わせて給付額を改定する仕組み(マクロ経済スライド)があるものの、少子高齢化で現役世代の負担が重すぎないよう調整されるため、インフレ分をそのまま反映せず、実質的に目減りする可能性があります。
つまり、年金を繰り下げて額面を増やしても、激しいインフレが進めば実質の価値は期待ほど増えないかもしれない、というわけです。
それなら早く現金として受け取って自分で株や投資信託などで運用したほうが、複利効果で減額分を補って余りある利益が期待できるでしょう。
将来的な制度変更への対策
日本の年金制度は少子高齢化の進展で、支給開始年齢の引き上げや給付水準の抑制が見直されてきました。
かつて厚生年金の支給開始年齢は55歳でしたが、段階的に60歳、そして65歳に引き上げられてきたという経緯があります。そのため、将来的にさらに引き上げられる可能性もあるでしょう。そのため、もらえる権利があるうちにもらっておいたほうが確実です。
制度が変わって後悔するより、現行制度で確実にキャッシュを手に入れておくほうが、リスク管理として優れているといえるのではないでしょうか。
