(※写真はイメージです/PIXTA)

老後資金は「足りるか足りないか」だけで語られがちですが、実際には“どう使うか”という選択も人生の質に大きく影響します。金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査(2023年)』によれば、60代二人以上世帯の金融資産平均は2,026万円、中央値は700万円と大きなばらつきがあります。十分な資産を保有しながらも支出を抑え続ける世帯も少なくありません。安心を優先した結果、「使わなかった後悔」が残るケースもあるのです。

「減らしたくない」が前提の老後設計

神奈川県内のマンションで暮らす高橋さん夫妻(仮名・ともに69歳)。夫はメーカー勤務を定年退職し、現在は無職。妻も専業主婦でした。

 

年金は夫婦合計で月約22万円。退職金と貯蓄を合わせた金融資産は約3,800万円あります。

 

住宅ローンは完済済み。家計は決して苦しくありません。それでも夫妻は、老後の支出を厳格に抑えてきました。

 

「資産は減らしたくなかったんです」

 

夫はそう言います。

 

食費は月5万円台。外食はほぼなし。旅行は定年後も一度も行っていません。

 

「贅沢しなければ、年金で回ると思っていました」

 

実際、家計は黒字でした。資産はむしろ微増していたといいます。

 

日々の暮らしは規則的でした。朝は同じ時間に起き、同じスーパーに行き、同じテレビ番組を見る。夕食は午後6時。就寝は午後10時。変化の少ない生活は、安心感をもたらしていました。

 

しかし妻は振り返ります。

 

「退職してから、夫と話すことが減った気がします」

 

外出は買い物と通院程度。共通の体験がほとんど増えません。

 

「一緒にいる時間は長いのに、会話が少ないんです」

 

夫も認めます。

 

「特に不満はなかった。でも楽しいことも増えなかった」

 

転機は67歳のときでした。夫の元同僚が急逝します。同年代でした。

 

「まだ若いのに…」

 

葬儀の帰り道、妻が言いました。

 

「私たち、このままでいいのかな」

 

帰宅後、夫は通帳を見ました。預金残高はほぼ変わっていません。

 

「減っていないことが、良いことだと思っていました」

 

しかしその夜、夫は初めて口にします。

 

「……もう少し使ってもよかったのかもな」

 

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