「こっちのほうが身の丈だよ」…夫婦が選んだ古民家生活
都内近郊に住む由紀子さん(仮名・35歳)の両親、和也さん(仮名・65歳)と恵子さん(仮名・65歳)は、退職を機に地方へ移住しました。
年金は夫婦で月20万円ほど。貯蓄はあるものの「なるべく減らしたくない」と言い、空き家バンクで見つけた古民家を購入。家は築60年。価格は安く、庭付きでした。
「東京の家賃を払うより、こっちのほうが身の丈だよ」
父は誇らしげでした。由紀子さんも最初は安心していました。自然が多く、両親の表情も明るかったからです。
ところが半年後、由紀子さんが訪ねたとき、空気に違和感を感じたといいます。
「寒くない?」
玄関に入った瞬間、底冷えがしました。部屋は広いのに、暖房が効いていない。
「灯油代がね。今月、けっこういったのよ」
母が笑ってごまかします。ストーブのそばには灯油缶が並び、床は所々きしんでいました。食卓の横には、見慣れない封筒の束。修理業者の見積書、役場からの通知、保険の案内。そして、ノートに細かく書かれた支出メモ。
「…これ、何?」
由紀子さんが聞くと、母は少し黙ってから言いました。
「直すところが、次々出てくるの。屋根、配管、シロアリの点検…“古民家だから仕方ない”って」
父が口を開きます。
「家自体は安かった。でも、住める状態にするのに金がかかった」「補助金も少し出たけど、足りない分は手持ちだ」
さらに、意外に効いていたのが“移動”にかかる費用でした。買い物は車で片道20分。病院はさらに遠い。ガソリン代と車の維持費、タイヤ交換。雪の日はスタッドレスも必要でした。
「ここ、車ないと詰むんだよ」
父が冗談っぽく言いますが、母の顔は笑っていません。
