被害は他人事ではない…高齢期の判断力低下と詐欺リスク
警察庁の公表によれば、特殊詐欺の被害は深刻で、令和7年の年間被害額は1,414億円にのぼっています。
また、内閣府『令和6年版 高齢社会白書』では、認知症の高齢者数は443.2万人(令和4年推計)とされており、高齢期に判断力や記憶の揺らぎが生じること自体は珍しいものではありません。
麻美さんは、父の言葉の端々にその“揺らぎ”を感じていました。「何回渡したの?」と尋ねても、「たぶん」「確か」と曖昧な答えしか返ってこない。日付の前後関係も整理できていない様子でした。
「……お父さん、もう一人で対応しないで。お願いだから」
父は小さくうなずきました。
麻美さんは責めるより先に、被害の拡大を止める行動を優先しました。
●金融機関へ連絡(取引停止・出金状況の確認・出金制限の相談)
●警察へ相談(#9110等の窓口、被害届の検討)
●固定電話対策(迷惑電話防止機器、常時留守電、番号変更の検討)
●通帳・印鑑・カードの管理見直し(家族が関与できる保管体制へ)
途中、父がぽつりと言いました。
「俺が悪いんだろ。情けないよな」
麻美さんは首を振ります。
「悪いのは騙す側。だけど、同じことが起きない形に変えよう」
高齢期のお金のトラブルは、注意や善意だけでは防ぎきれません。大切なのは、本人の尊厳を保ちながら、事故が起きにくい環境に整えることです。
麻美さんは通帳を閉じながら思いました。
「興味本位で見ただけだったのに……見なかったら、もっと大きな被害になっていたかもしれない」
帰り際、父が小さく言いました。
「……助かった。言えなかったんだ」
麻美さんは静かに答えました。
「言えたのが今日でよかった。ここから立て直そう」
高齢の親の家計異変は、数字ではなく“沈黙”として現れることがあります。通帳は責めるためではなく、守るために共有されるべきもの――そう実感した出来事でした。
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