「うちは堅実」…その自信が揺らいだ夜
都内近郊で暮らす会社員の慎一さん(仮名・59歳)は、年収680万円。妻の美和さん(仮名・58歳)と二人暮らしです。子どもは独立し、住宅ローンもあと数年。慎一さんは定年後の生活を、ぼんやりと“見通せている”つもりでした。
「退職金もあるし、貯金もそれなりにある。贅沢しなければ何とかなる」
そう思っていたある夜、美和さんが通帳を差し出しました。
「ねえ、ちゃんと見てほしいの。今の残高」
慎一さんは画面を見て、言葉を失います。普通預金の残高は、わずか98万円。定期預金もほとんどありません。
「……え? こんなはずないだろ。学費も払い終わったし、ボーナスだって…」
美和さんは目を伏せたまま言いました。
「“残らなかった”の。理由、全部話すから…」
原因は、派手な浪費ではありませんでした。積み重なったのは、家計に紛れ込む“見えない固定費”です。
1つは、住宅ローンの見直し。数年前に繰上返済を優先し、ボーナスから年60万円ほどを充てていました。
「繰上げしたら安心だと思って…」
「でも、手元資金が薄くなってるじゃないか」
もう1つは、親への支援でした。美和さんは実母の通院費や生活費を、月2〜3万円ずつ補助していました。慎一さんに言い出せないまま、数年続いていたといいます。
「言ったら怒ると思った」
「怒るとかじゃなく…なんで相談しないんだよ」
さらに、子どもの独立後も続いた“仕送りの名残”。引っ越し費用、家電の買い替え、結婚準備の援助。単発の支出が、ボーナスを静かに削っていました。
