今回は、税務調査官が「車両の台数と走行距離」に注目し、事業所の在庫数量を把握した事例を見ていきます。※本連載では、税理士・加藤武人氏の著書『ベテラン調査官はここを見てる―「対話方式による52事例」で読み解く!税務調査のチェックポイント集』(大蔵財務協会)の中から一部を抜粋し、事例をもとに、調査官が注目するポイントを紹介します。

「あるべき数量」と「申告された数量」が一致しているか

〔調査事例〕

調査官は、商品・貯蔵品・製品・原材料等の数量を集計し、あるべき数量と申告された数量とが一致しているかどうかを確かめる。

 

⑴タイヤの消耗頻度から

調査官は、総勘定元帳の消耗品費を見ながら「タイヤ購入代が決算月(9月)に計上されていますね。これに関する納品書と請求書を見せてください」。9月にタイヤを購入しているが、実際の使用は10月以降だったのではないかと予測しての質問です。

 

ところが、経理部長は減価償却資産か消耗品費かを調査しているものと思い込んで、「1本10万円を超すものはありません。また1年も使えないのですから消耗品です」と。

 

調査の多くは、減価償却資産となるか否かを納品書や請求書から判断することとなります。よって、高額な取引に目を向ける傾向にあると言えます。

 

ところが調査官は、「タイヤの購入本数と車両台数を教えてください。それから、各車両の年間走行距離や1ヵ月の稼動日数は分かりますか」と話を変えてきました。

 

これに対し経理部長は、「車両台数は20台です。それ以上のことは整備工がいますので聞いてみてください」と。

調査官が注目した所有車両台数とタイヤの交換サイクル

調査官は整備工に対して、「1台あたり何ヵ月でタイヤ交換をしていますか」と。

 

《整備工》8ヵ月で交換です。

 

《調査官》そうすると車両は合計で20台ですから、年間に換算するとタイヤは120本必要になるということですね。

 

《整備工》いや、もっと必要になると思います。160本は必要になるのではないでしょうか。

 

調査官は、車両台数とタイヤの交換サイクルから年間に必要なタイヤの本数を割り出しているのです。整備工に対する聞き取りや納品書から集計した本数からあらゆる問題点を探ることとなります。

 

⑵未使用の在庫の疑い

この場合に、納品書から集計したタイヤの本数が年間160本であれば、1台あたりの交換サイクルが8ヵ月より短いことが考えられます。そこで8ヵ月の交換サイクルが正しいということがはっきりと確認できた場合には、160本-120本の差額40本のタイヤは、未使用のタイヤかあるいは、整備工の横流しも考えられることとなります。

 

経理部長がすべてを当事者として答えられる立場にいる場合には、未使用の在庫の疑いが強くなるでしょう。ところが、整備工にすべて任せてあり、ましてやタイヤの管理が不十分で内部牽制が採られていないことがはっきりとしている場合には、整備工の不正の疑いも考えられるのです。当然、未使用の在庫の場合は棚卸資産の計上漏れとなり、整備工の横流しは、賞与と認定されることになるでしょう。

 

調査の現場では、このように商品・貯蔵品・製品・原材料等の数量に着目し確認することもあります。例えば、仕入れ数量と販売数量を集計することにより在庫数量を把握したり、製造数量と出荷数量を集計したりすることで在庫数量を把握するのです。このように集計され、あるべき数量と申告された数量とが一致しているかを確かめることとなるのです。

 

【税務調査のチェックポイント】

①タイヤの購入本数と車両台数は合っているか?

②各車両の年間走行距離や1ヵ月の稼働日数はどうなっているか?

③未使用の在庫の疑いや整備工の横流しの疑いはないか?

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    加藤 武人

    大蔵財務協会

    実際の税務調査の現場で進められる調査方法を「対話方式による事例」に基づいて、主に①調査官の聞き取り方、経営者の伝え方、②関係者への反面調査の視点、③業務プロセス(仕事の仕方)の3つの視点から分かりやすく解説しま…

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