今回は、工事の「工程表の変化」に税務調査官が着目した理由について見ていきます。※本連載では、税理士・加藤武人氏の著書『ベテラン調査官はここを見てる―「対話方式による52事例」で読み解く!税務調査のチェックポイント集』(大蔵財務協会)の中から一部を抜粋し、事例をもとに、調査官が注目するポイントを紹介します。

1000万円もの赤字を出した工事が存在

〔調査事例〕

調査官は、注文書・請求書・領収書のみならず、工程表などのさまざまな書類を確認し、業務実態の把握に努める。

 

⑴赤字の理由はなんだったのか?

調査官は、総勘定元帳の中から「社長さん、この工事売上5000万円はA工事ですね。このA工事の注文書はありますか。また、実行予算書はありますか」と。

 

《経営者》A工事の注文書と実行予算書を準備しました。ご覧ください。

 

《調査官》社長さん、A工事の売上5000万円に対して、実行予算書による予定原価は4000万円となっており、このA工事の実績が6000万円となっています。ということは、1000万円赤字だったということになりますが、間違いありませんか。

 

《経営者》A工事は、1000万円赤字の工事であったとの報告を受けています。

 

《調査官》A工事が1000万円もの赤字だった理由はなんだったのでしょうか。

 

《経営者》A工事は、もともと4000万円の実行予算だった工事です。ところが、A工事の現場は、台風の影響で工期が遅れたことと、施工の難易度が想像以上に高かったことからこのような結果になってしまいました。

 

《調査官》A工事の工程表はありますか。工程表を確認させていただき、台風がどの程度影響したのかを確認させてください。また、施工図面を確認させていただき、どの箇所の難易度が高かったのか教えていただけませんか。

 

《経営者》A工事の8月と9月の工程が、台風の影響で2週間遅れました。また、この施工図面のこの部分が我々専門家でも優秀な職人が手掛けないと難しい部分です。

 

《調査官》ありがとうございました。台風の影響は外部要因なのでどうすることもできませんね。ところで、施工難度の高いこの部分の仕事は当初から分かっていて、注文書に反映しているのではないでしょうか。

 

《経営者》積算の担当者の報告によりますと、積算の段階ではこの難易度が高いことが分からなかったと聞いています。

取引先との間で売上と外注費の調整をしていないか?

⑵取引先との間で売上と外注費の調整

調査の現場では、注文書・請求書・領収書のみならず、工程表をはじめさまざまな書類を確認し、業務実態の把握に努めます。

 

一般的には、赤字を見越して受注する会社はどこにもありません。1円でも多くの利益が計上できるよう努めるのが自然な行為です。

 

以前受注した現場では、全体の予算がないので赤字を被るはめになってしまうことは散見されます。次の工事で黒字になるよう調整をすることも見受けられます。

 

当初、取引先が決算にて利益が出たので外注費として経費処理を行い、翌期以降に、次の現場で外注費を減額調整することも考えられます。

 

取引先との間で、売上と外注費の調整をすることでも、このような状況は生まれることとなります。

 

このような不自然な行為が度重なって支出が行われた場合には、赤字となった原因や通常の利益率とは異なり、大幅に変動した理由を説明できるようにしておくことが望まれます。

 

【税務調査のチェックポイント】

①赤字となった原因は何か?

②通常の利益率とは異なり、大幅に変動した理由は何か?

③取引先との間で売上と外注費の調整をしていないか?

ベテラン調査官はここを見てる―「対話方式による52事例」で読み解く! 税務調査のチェックポイント集

ベテラン調査官はここを見てる―「対話方式による52事例」で読み解く! 税務調査のチェックポイント集

加藤 武人

大蔵財務協会

実際の税務調査の現場で進められる調査方法を「対話方式による事例」に基づいて、主に①調査官の聞き取り方、経営者の伝え方、②関係者への反面調査の視点、③業務プロセス(仕事の仕方)の3つの視点から分かりやすく解説しま…

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