今回は、前回に引き続き、「建設業許可不取得」と「請負契約の成立」について解説します。※本連載では、弁護士・犬塚 弘氏の編集(代表)、共著『建築紛争 判例ハンドブック』(青林書院)の中から一部を抜粋し、建築紛争の中でも「契約の有効性・仕事の完成」に関する重要判例(判決の内容、解説)を取り上げ、紛争予防と問題解決への実務指針を探ります。

建設業法違反と請負契約の有効性

前回の続きです。

 

1 建設業法違反と請負契約の有効性

Xは、建設業法が定める建設業の許可を得ていない業者でありこの点について争いはなかった。Yは、建設業の許可を得ていないXとの間で交わした請負契約は無効であると主張したが、裁判所はYの主張を認めず、建設業の許可を得ていない業者との間でなした請負契約も有効であるとした。

 

建設業法3条は、一定の工事を施工しようとする者に対し、大臣、又は知事による建設業許可を受けることを定めているところ、これは、いわゆる取締法規であり、この規定に反して建設業を営んだ者に対し、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金の刑事罰が定められている(建設47条1項1号)。

 

取締法規違反がある法律行為の私法上の有効性については、食品衛生法による精肉の営業許可を受けていない当事者による食肉の売買契約を有効と認めたもの(最判昭35・3・18民集14巻4号483頁)、食品衛生法違反の有害物質混入のあられ菓子取引を公序良俗違反として無効としたもの(最判昭39・1・23民集18巻1号37頁)、白タクの運送契約を有効としたもの(名古屋高判昭35・12・26高刑集13巻10号781頁)などの判例がある。

 

本件では、建設業法は無許可で建設業をなすことを規制するものであるとして、その違反は、私法上の有効性を否定するものではないと判断された。

 

2 追加変更工事代金発生の有無

Xは、本件工事は、請負契約後に設計が変更され、当初請負代金2293万円から420万円の追加工事が発生したとして、当初代金の残代金1873万円に加え、追加工事代金を請求していた。

 

Yは、追加工事が発生したことの証拠として、複数の図面等を提出したが、いずれもその作成日付が不自然であったり、追加工事の発生を裏付ける打合せ議事録もなかったことなどから、追加変更工事の合意は認められないとした。そして、当初請負工事の際の見積書は、打合せを重ねて確定された設計図に基づいて作成されたものではないのではないかという疑念が払拭できないとした。

 

裁判所は、最終的に、本件請負工事は契約当初は工事内容について必ずしも全部は確定しておらず、工事着工後、随時当事者間で確定されたことが推認されるとし、Xが追加工事と主張する工事は、本工事に含まれるとし、追加変更工事を認めなかった。

争われた瑕疵該当性

3 当初請負契約が確定していない場合の瑕疵と瑕疵修補に代わる損害賠償

本件では、Xがなした工事には複数の瑕疵があるとの主張がなされていた。しかし、前述したとおり、当初の請負契約の内容が確定できないため、Yの主張する瑕疵についての瑕疵該当性が争われた。

 

裁判所は、図面等により当初の工事内容が完全には確定できないとしても、Yが営むクリニックの新装工事であることについては双方合意していたと認め、クリニックの通常の新装工事の仕様として社会通念上最低限期待される性状を備えることが契約の当然の前提であったとした。そして、本件建物には、当事者が期待していた一定の性状を完全には備えていないとし、瑕疵に当たると認めた。また、瑕疵修補に係る額は、建設業許可を得ていないXが修補する際の金額ではなく、Yが第三者に修補させるに必要な額が妥当であるとした。

 

瑕疵修補に代わる損害賠償として合計274万8035円の損害を認め、工事代金の残代金1873万円と相殺し、1598万1965円の請求を認容した。

建築紛争判例ハンドブック

建築紛争判例ハンドブック

犬塚 浩 髙木 薫 宮田 義晃 山田 敏章 楠 慶 稲垣 司 堀岡 咲子 竹下 慎一 石橋 京士 吉田 可保里 宗像 洸

青林書院

最新重要判例から紛争予防と問題解決の実務指針を探る!平成20年以降の判例・裁判例の中から、設計・監理をめぐるトラブルや、建築工事の瑕疵に関する紛争を中心に、実務上とくに押さえておきたい重要判例69を厳選。法律実務家…

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