今回は、請負代金請求・瑕疵修補に代わる損害賠償請求の判例について見ていきます。※本連載では、弁護士・犬塚 弘氏の編集(代表)、共著『建築紛争 判例ハンドブック』(青林書院)の中から一部を抜粋し、建築紛争の中でも「契約の有効性・仕事の完成」に関する重要判例(判決の内容、解説)を取り上げ、紛争予防と問題解決への実務指針を探ります。

建物請負工事完成の有無が争点のひとつ

【ケース】

請負代金請求・瑕疵修補に代わる損害賠償請求

東京地裁平成26年3月18日判決(平成23年(ワ)第8546号・同第38624号、平成24年(ワ)第35957号)

ウエストロー・ジャパン2014WLJPCA03188012、LEX/DBインターネット25518526

 

【争点】

1 建物請負工事完成の有無

2 請負人の報酬請求権と注文者の瑕疵修補に代わる損害賠償請求権判決の内容

 

【判決の内容】

●事案の概要

本件は、建物建築請負業者である被告Yとの間で建物建築請負契約を締結した原告Xが被告Yに対して、主位的に建物が未完成であることを理由に未完成部分について請負契約を解除したとして、原状回復請求権に基づき未完成工事に相当する請負代金の返還を求めるとともに、履行遅滞に基づく損害賠償請求として約定の違約金などの支払を求め、予備的に被告Yが建築した建物には瑕疵があるとして、瑕疵修補に代わる損害賠償請求として瑕疵修補費用などの支払を、履行遅滞に基づく損害賠償請求として約定の違約金などの支払を求めた事案である。他方、被告Yは、反訴として、原告Xに対して未払の請負代金等の支払を求め、また、原告Xから追加変更工事を請け負ったとして、被告Yが、原告Xに対し、追加変更工事代金の支払を求めた事案である。

「仕事の完成」とは?

●判決要旨

1 建物請負工事完成の有無

工事完成の有無及び工事未完成を理由とする本件請負契約解除の可否については、民法632条にいう「仕事の完成」とは、工事が予定された最後の工程まで一応終了したことを指し、ただそれが不完全なため補修を加えなければ完全なものとはならないという場合には、仕事は完成したが仕事の目的物に瑕疵があるときに該当するものと解すべきである。

 

これを本件についてみるに、原告Xが本件建物に存在する不具合と主張するものは、いずれも、補修を要するものと判断されないか、補修を要するとしても軽微なものである。また、原告Xが残工事と主張するものは、いわゆる「ダメ工事」、すなわち工事がほぼ終わった段階で、手直しの必要があると指摘された部分について、手を加えて改善する工事の域を出ない。しかも、原告Xが、本件建物の引渡しを受けて入居するとともに、本件建物の所有権保存登記をし、さらに本件建物の検査済証の交付を受けていることも考慮すれば、被告Yは、本件請負契約に基づく工事の全工程を一応終了させたものと認めるのが相当である。よって、本件請負契約に基づく工事が未完成であること及び未完成を理由に本件請負契約を解除したとの原告Xの主張はいずれも理由がない。なお、被告Yは、本件請負契約に基づく工事の全工程を一応終了させたものと認められるので、原告Xに対し、本件請負契約に基づく請負代金全額の支払を請求することができる。

 

2 請負人の報酬請求権と注文者の瑕疵修補に代わる損害賠償請求権

請負契約の目的物に瑕疵がある場合には、注文者は、瑕疵の程度や各契約当事者の交渉態度等に鑑み信義則に反すると認められるときを除き、請負人から瑕疵の補修に代わる損害の賠償を受けるまでは、報酬全額の支払を拒むことができ、これについて履行遅滞の責任も負わず(最判平9・2・14民集51巻2号337頁)、請負人の報酬債権に対し注文者がこれと同時履行の関係にある瑕疵修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合、注文者は、相殺後の報酬残債務について、相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負う(最判平9・7・15民集51巻6号2581頁)。よって、本件請負契約に基づく請負代金残額の支払義務は、原告Xが相殺の意思表示をした翌日である平成24年1月14日から遅滞に陥る。原告Xは、請負代金支払義務について瑕疵修補に代わる損害賠償請求権との同時履行の抗弁も主張しているが、同時履行の抗弁の権利主張をする前に、相殺により瑕疵修補に代わる損害賠償請求権が消滅しているので、同時履行の抗弁は主張自体失当である。

 

よって、原告Xの請求はいずれも理由がないから棄却し、被告Yの請求は、本件請負契約に基づく請負残代金のうち相殺後の残額及びこれに対する相殺の意思表示の日の翌日からの商事法定利率による遅延損害金並びに追加変更工事代金及びこれに対する追加変更工事完成引渡し後の日から商事法定利率による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却する。

建築紛争判例ハンドブック

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