今回は、「建設業許可不取得」と「請負契約の成立」についての判例を見ていきます。※本連載では、弁護士・犬塚 弘氏の編集(代表)、共著『建築紛争 判例ハンドブック』(青林書院)の中から一部を抜粋し、建築紛争の中でも「契約の有効性・仕事の完成」に関する重要判例(判決の内容、解説)を取り上げ、紛争予防と問題解決への実務指針を探ります。

建設業法違反と請負契約の有効性

【ケース】

建設業許可不取得と請負契約の成立

東京地裁平成24年2月3日判決(平成20年(ワ)第31050号)

ウエストロー・ジャパン2012WLJPCA02038003、LEX/DBインターネット25491964

 

【争点】

1建設業の許可を取得していない施工業者との工事請負契約の有効性

2設計変更指示による追加変更工事に伴い工事代金が増額したといえるか

3当初請負工事の内容が確定していない場合の瑕疵と瑕疵修補に代わる損害賠償

 

【判決の内容】

●事案の概要

病院の新装工事を請け負ったXが、建築基準法同工事の注文者であるYに対し、工事の残代金、及び追加変更工事代金の支払を請求した事案である。これに対してYは、Xは建設業法3条が定める建設業許可を取得していない建設業者であるので、請負契約は建設業法に抵触し、無効であると主張した。また、Yの行った工事は完成していない、完成していたとしても瑕疵があるとして、請負代金と瑕疵修補に代わる損害賠償請求権との相殺を主張した。

 

●判決要旨

1 建設業法違反と請負契約の有効性

建設業法1条の立法趣旨に照らせば、同法3条の許可の規定は無許可業者に対する刑罰規定(建設47条)と相まって、建設業を無許可で現実になされること自体を行政的立場から取り締まることを直接の目的とする、いわゆる取締法規であり、同法7条は国土交通大臣又は都道府県知事が同法3条の許可処分をするにあたっての基準にすぎないから、これら各法条に反する工事請負契約であっても、その故にその私法上の効力まで否定されるものと解すべきではない。そうすると、本件請負契約は有効と解するのが相当であり、その契約上発生する債権全額を請求することができるといわなければならない。

 

2 追加変更工事代金発生の有無

(Xが証拠として提出した複数の図面について、その作成日付の信用性やその後の加筆修正の可能性等について検討を加えた上で)結局、本件全証拠によっても、どの図面が本工事を裏付ける客観的な図面であるかは分明ではなく、具体的にどのような追加変更工事がなされたのかについても特に特定することができない。

 

本件請負契約に係る本工事の内容は契約当初は必ずしも全部は確定しておらず、工事着工直後Yとの確認によって、随時確定されたものと推認するのが相当である。

 

Xが主張する本件追加変更時の内容は、本工事との区別がつかないものであり、追加変更工事一覧表のうちX主張に係る番号24を除く各追加変更工事は、いずれも本工事に含まれることに帰着すると解するのが相当である。

 

番号24に係る工事は、いわゆる駄目工事(手直し工事)であって、本工事に含まれる工事である。

 

よって、Xの追加変更工事代金の主張は、その前提を欠いており、採用することができない。

瑕疵修補に代わる損害賠償請求権

3 当初請負契約が確定していない場合の瑕疵と瑕疵修補に代わる損害賠償

建築の瑕疵は、完成された仕事が契約で定められた内容どおりではなく、使用価値や交換価値を減少させるか、あるいは当事者があらかじめ定めた性能を欠くなど、契約内容に照らして不完全な点を有することと解される。

 

そして、瑕疵修補に代わる損害賠償請求権については、その修補に必要かつ相当な範囲の限度で賠償が是認されるべきものであって、当事者が請負契約において予定した工事内容と同程度の修補(欠陥の除去)であり、当然にはその工事のやり直しを意味するものではなく、しかも同じ目的を達するために複数の工事方法があるとしても、最も安価な修補方法の工事費用の程度で賠償が認められるものと解するのが相当である。

 

本件工事請負契約については、契約当初の図面等により当該工事の内容が必ずしも完全に確定し得なかったとしても、その契約目的及び趣旨が、Yの経営する本件医院の新装工事であって、不特定多数の患者が出入りする部屋の建築工事であることは、Xもこれを十分に認識し理解していたことが認められるから、本件工事は、クリニックとして社会通念上期待される性状を備えていることが当該契約内容の当然の前提とされていたものと認定するのが相当である。

 

本件工事には、天井裏に不要なケーブルが束で残置してあったり、配線方法が正しくないなどの瑕疵があると認められる。

 

また、修補費用については、建設業法所定の許可を有しておらず、建築士法所定の資格を有する従業員や設計担当者がいないXが簡単に修補できるものではないことが認められるので、発注者であるYにおいて第三者に修補させる費用を損害として算定するのが合理的である。

建築紛争判例ハンドブック

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