「遺産はすぐ手に入る」と思ったら大間違い
裕司さんが当てにしていた預金は、すでに遺産として扱われる財産です。相続人が複数いる場合、原則として法定相続分または遺産分割協議で決まった割合に応じて分ける必要があります。
相続税の申告期限は死亡から10ヵ月以内と定められていますが、実際の遺産分割や手続きが完了するまでには、1年以上かかるケースも珍しくありません。他の相続人との協議が難航した場合には、さらに長期化することもあります。
民法改正で“仮払制度”はあるが…限度額あり
2019年の民法改正により、「預貯金の仮払制度」が導入されました。一定の条件を満たせば、相続人単独でも上限付きで口座から仮に引き出すことが可能です。
上限:1つの金融機関あたり150万円まで
条件:預金残高・法定相続分に基づく計算式あり
用途:葬儀費用や当面の生活費などに限るケースも多い
しかし、今回のように借金返済目的での引き出しには基本的に応じてもらえず、そもそも裕司さんは制度自体を知らなかったようです。裕司さんはようやく事の重大さに気づきました。
「俺が相続できるのは一部だけ? そもそも、そんな簡単に下ろせないのか…」
さらに、他の兄弟たちとの関係が悪化していたこともあり、遺産分割協議がすぐに進む見込みもありません。頼みの綱だった“親の遺産”は、自分の手に届かないまま時間だけが過ぎていきました。
裕司さんはその後、債務整理を検討し、司法書士の支援を受けて分割返済の計画を立て直すことにしました。相続手続きは進行中ですが、すでに「遺産を頼る」という考えは捨てたといいます。
「親の遺産をあてにする前に、自分の暮らしを立て直さないと意味がない。それが身に染みてわかりました」
家族が亡くなった後の混乱を防ぐには、遺言書の作成や相続人同士の事前の話し合いも重要ですが、相続を受ける側もまた、自分の暮らしを自分で支える意識が欠かせません。遺産で借金を返せる──そう思った瞬間に、人生の設計はすでに誤っているのかもしれません。
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