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節税は成功したはずが…
税理士は、前年と今年の帳簿を並べて提示しました。指差しているのは“期末時点の現金残高”の欄です。
昨年は、2,400万円。 決して余裕があるとはいえませんが、“次の一手”を打てるだけの金額でした。 しかし今年は550万円。
「……あれ?」社長の喉が、小さく鳴りました。「……こんなに、使った覚えはないんですが」
「節税は、確かにできています」税理士は淡々と続けます。「ですがその代わりに、会社の“体力”がほぼ削り切られています。今期の経営に必要な現金は足りますか?」
節税は成功しているのに、動かせる現金がない。その違和感が、はっきりと形を持って社長に突き刺さりました。
税金より怖いもの…“いつもの融資”が止まるとき
しばらくして、山根社長は、いつものように銀行へ電話をかけていました。
「いつもお願いしている運転資金の件なのですが……」
銀行員は電話の向こうで、一瞬、言葉を選んでいる様子でした。
「今回は見送りになる可能性があります。仮に融資実行できたとしても条件はかなり厳しくなると思います」
社長は、言葉を失いました。銀行員は、決算書を確認しながら事務的に理由を述べます。
「直近決算で、手元資金が月商の半月分も残っていません。正直にいって、“なにかあったら耐えられない会社”という評価になります」
山根社長は節税によって信用を失ってしまったことを理解しました。銀行からみれば、体力のない会社に貸したいわけがありません。
このときはじめて、山根社長は気づいたのです。会社を評価するのは節税額ではない。「残っている現金」こそが、会社の評価なのだと。
「節税額」よりも大切なこと
筆者はこの手の話を聞くたびに、確信することがあります。節税が上手な会社より、現金を残せる会社のほうが圧倒的に強い、ということです。
経営において、支払う税金の多寡は、本質ではありません。会社の生死をわけるのは、「いまこの瞬間に、いくら自由に動かせる現金があるか」です。
筆者自身、決算をみるときにまず確認するのは、当然ながら節税額ではありません。
・月商の何ヵ月分の現金が手元に残っているか
・想定外が起きても、即座に動ける余力があるか
・銀行から「次も貸したい会社」とみられているか
みるべきポイントは、この3点に尽きます。
多少税金を多く払ってでも、銀行が黙って融資枠を提示してくれる決算が望ましいでしょう。なぜなら、現金は“選択肢そのもの”だからです。
現金があれば、チャンスが来た瞬間に踏み込めますし、失敗しても立て直せます。判断を焦る必要もありません。逆に、節税で現金を削り切った会社は、選択肢が消え、判断が鈍り、「本当はやりたいけど無理」という場面が増えていくでしょう。
木を見て森を見ず。節税という一本の木に囚われ、会社全体という森を自分で枯らしているだけです。それは経営でも、戦略でもなく、ただの自己満足に過ぎません。
目先の節税で現金を使い果たしてしまえば、本当の勝負どころで手も足も出なくなります。未来を買うための体力を、過去の税金減らしで消耗してはいけないのです。
最後に、ひとつだけ問いを残します。
もし明日、突然チャンスが訪れたとき。あなたの会社は、「やりたい」ではなく「やる」といえるでしょうか?
萩原 峻大
東京財託グループ 代表
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