電話越しの違和感
「最近、声に元気がない気がして……」
そう語るのは、地方在住の主婦・佐藤恵子さん(仮名・54歳)です。東京で一人暮らしをする息子・健太さん(仮名・25歳)は、大学卒業後に就職。現在は都内の中小企業で働き、手取りは月22万円ほどだといいます。
「電話すると、いつも『大丈夫だよ』『ちゃんとやってる』って言うんです。でも、前みたいに明るく話さなくなっていて……」
LINEの返信も短くなり、通話を早めに切りたがる様子。「忙しいのかな」と思いながらも、恵子さんの胸には小さな引っかかりが残っていました。
心配が募った恵子さんは、ある週末、「近くまで来たから」と息子に連絡し、アパートを訪ねることにしました。
築30年ほどの木造アパート。ドアを開けた瞬間、恵子さんは言葉を失います。
「部屋に、ほとんど物がなかったんです」
ベッドと机、床に置かれたノートパソコン。冷蔵庫を開けると、ペットボトルの水と、使いかけの調味料が数本あるだけ。
コンロにはフライパンがひとつ。シンクには、洗われていないカップが残っていました。
「ちゃんと食べてるの?」と聞くと、健太さんは視線を落としました。
「……昼は会社で適当に。夜は、あんまり」
話を聞くうちに、家計の内訳が見えてきました。家賃は月8万5,000円。そこに光熱費、通信費、奨学金の返済。社会保険料も差し引かれ、自由に使えるお金はほとんど残りません。
「自炊しようと思っても、帰りが遅くて。コンビニは高いし、結局、ほとんど食べない日もある」
「心配かけたくなかった」
「言ったら、母さんが心配すると思って」
健太さんは、そう繰り返しました。
仕事は辞めたくない。弱音も吐きたくない。でも、余裕はない――その板挟みの中で、「何も言わない」選択をしていたのです。
「ちゃんと稼いでるし、迷惑はかけてないから……」
恵子さんは、その言葉を遮りました。
「迷惑なんて思わない。ちゃんと食べて、眠れて、普通の生活ができてるか――それが一番大事でしょう」
