孤独な老後への不安から「マッチングアプリ」に登録
「このまま1人で歳をとっていくのかと思うと、急に寂しくて不安になったんです。誰か心から寄り添える人がほしかった」
都内の企業で正社員として長く勤めるA子さん(仮名・55歳)は、独身を貫き仕事に打ち込んできました。年収は約600万円、堅実に貯蓄に回してきたおかげで約2,000万円の貯金があり、金銭的な不安はありませんでした。
しかし、50代半ばに差し掛かり、ふと「老後の孤独」を強く意識するようになったといいます。寂しさを紛らわせようとマッチングアプリに登録すると、海外で医師をしていると名乗る同年代の日本人男性とマッチングしました。
LINEを交換すると「君のような自立した素敵な女性に出会えて幸せだ」といった甘い言葉が毎日届きます。メッセージや電話を重ねて1ヵ月、「日本に帰国したら一緒に暮らそう」とプロポーズを受けます。
すっかり心を許したA子さんは、喜んでその言葉を受け入れました。
「二人の将来のため」老後資金2,000万円はどこに
幸せの絶頂にいた数日後、男性から「2人の将来の家を買うために、一緒に資産を作ろう。確実な投資がある」と提案されます。
投資に対しては慎重だったA子さんですが、「結婚のための共同作業だ」といわれ、彼が指定した暗号資産の取引サイトに登録。まずは50万円を振り込むと、数日で利益が出て出金もできました。
「彼のいう通りだ。これで私たちの将来はもっと豊かになる」
完全に信じ切ったA子さんは、彼の言葉に促されるまま、老後のための貯金から合計2,000万円を数回に分けて指定の口座へ振り込みました。
しかし、順調に増えた資産を引き出して家の資金にしようと出金申請したとき、事態は急変します。「引き出すためには、保証金として先に300万円を振り込んでください」と表示されたのです。
驚いて彼に相談するも、「早く振り込んだほうがいい」と冷たい返事。不審に思って「利益から差し引いてほしい」と伝えた翌日、LINEはブロックされて一切の連絡が取れなくなりました。
結婚の話も、優しい言葉も、すべてはお金を引き出すための嘘だったのです。愛する人と将来の資金を同時に失ったA子さんは、絶望に取り残されてしまいました。
「やっと“運命の人”に出会えたと、本気で信じていた。なのに、どうしてこんな目に……」
お金と心に深い傷を残す「SNS型ロマンス詐欺」の実態
A子さんが巻き込まれたのは、現在急増している「SNS型ロマンス詐欺」と呼ばれる手口です。
警察庁が発表した『令和6年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について』のデータに、その深刻な実態が客観的な数値として表れています。同資料によると、2024年(令和6年)におけるSNS型ロマンス詐欺単体の認知件数は3,824件(前年比142.8%増)、被害額は400.9億円(前年比126.1%増)にのぼります。被害者の多くは、A子さんのようにある程度の資産を持った自立した中高年層です。
ロマンス詐欺の最も悪質な点は、被害者の孤独への不安や恋愛感情を巧みに利用する点です。将来の結婚や同居をちらつかせて依存させるため、第三者から見れば不自然な個人口座への振り込みであっても、「愛する彼がいうことだから」と疑うことなく大金を送ってしまうのです。一度振り込んでしまうと、出金しようとした際に保証金や税金などの名目でさらに金銭を要求され、最終的には音信不通になるのが典型的なパターンです。
マッチングアプリやSNSで知り合った相手からお金の話や投資の勧誘が出た場合は、どれほど甘い言葉をかけられていても詐欺を疑い、関係を断ち切ることが重要です。
[参考資料]
警察庁「令和6年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について」
