ゴールドオンライン新書最新刊、Amazonにて好評発売中!
データで読み解く「日本経済」のリアル【エンタメ・スポーツ・事件編】
宅森昭吉(著)+ゴールドオンライン(編集)
データで読み解く「日本経済」のリアル【季節&気象・マインド・おもしろジンクス編】
宅森昭吉(著)+ゴールドオンライン(編集)
富裕層の資産承継と相続税 富裕層の相続戦略シリーズ【国内編】
八ツ尾順一(著)+ゴールドオンライン(編集)
シリーズ既刊本も好評発売中 → 紹介ページはコチラ!
いつの間にか生じていた妻との距離感
42年間の「不遇な会社員人生」からようやく解放されたAさん。これからは接待ではない純粋なゴルフを楽しみたい。妻とゆっくり温泉旅行に行きたい。平日の公園をのんびり散歩したい――。やりたいことは山ほどありました。
しかし、いざ「毎日が日曜日」の生活が始まると、待っていたのは妻からの拒絶でした。「収入は年金だけなんですから、節約してください。ゴルフは3ヵ月に1度が限界。夫婦で旅行なんてもってのほかです」
一人娘はすでに独立し結婚しています。お金のかかる楽しみはすべて妻に却下され、Aさんはただ時間を潰すだけの毎日を送ることになりました。
暇を持て余し、妻の買い物に「荷物持ちでも」とついて行ったこともあります。最初は妻も「助かる」と思ったかもしれません。Aさん自身も「こういう夫婦の時間も悪くない」と思いはじめていました。
ところが、次第に邪魔者扱いされてしまいます。「この野菜の値段は高いのか? 安いのか?」「肉は国産にするのか? 外国産か? いつもどっちは買ってるんだ?」よかれと思ってあれこれ聞くAさんに、妻の堪忍袋の緒が切れました。
「いちいち聞かないで。付き添いは要らないから、もう来ないでほしい」
家の中ではゴミの分別すらわからず、かといって妻には聞きづらい。会社には定年間近でも頼ってくれる部下がいたのに、家庭内には自分の居場所がどこにもない。かつて忌み嫌った「サラリーマンの苦行」こそが、社会と自分を繋ぎ、家庭内での威厳を保つ「鎧」だったのだと、Aさんは皮肉な現実を突きつけられたのです。
人生100年時代。残された35年を、鎧なしでどう過ごせばいいのでしょうか。
愛娘からの「相談」
Aさんが定年退職時に受け取った退職金は2,000万円。中小企業とはいえ大手グループの強みか、想定以上の金額に胸を撫で下ろしていました。ところがその矢先、娘から「マイホームを買いたい」という相談を持ちかけられます。可愛い娘の頼みです。Aさんは相続時精算課税制度を使い、退職金の多くを援助に使ってしまいました。
その結果、Aさんの老後資金として手元に残ったのは500万円。これに夫婦の年金(年額約270万円)を合わせたものがすべてです。
これでは心もとないと、妻はあからさまに焦りはじめました。「お金がない。節約しなければ生活が苦しい」 Aさんに聞こえるように独り言を繰り返す妻。居心地の悪さに耐えかねて外出するものの、お金を使えないAさんは、公園のベンチでただボーっと時間を潰したり、スーパーや図書館に行ってぶらぶらしたりするしかありません。
ふと、現役時代を思い出します。あれほど嫌だった満員電車も、人が側にいるという「安心感」があったのではないか。不遇な環境でも、組織の一員として必要とされていたことが、自分の精神安定剤だったのではないか……。失って初めて、その事実に気づいたのです。

