路線価から導いた“概算評価” 初めて知る資産の「現実」
面談では、まず現地周辺の路線価を調査しました。
佐藤さんの自宅マンションの路線価は1平方メートルあたり550,000
ここから土地の評価額を算出し、敷地権割合をかけ、さらに建物の評価を加えて“概算”を出していきます。
計算式を見ていた佐藤さんは、驚いたように言いました。
「こんなに複雑なんですね……マンションなら誰が見ても同じ価値だと思っていました」
駐車場についても同様に試算
佐藤さんが妻への“感謝のプレゼント”にできないかと考えていた故郷の駐車場も、相続上は重要なポイントになります。
・収益性
・路線価
・評価額
・名義変更のタイミング
・贈与税の問題
単純に「名義を妻にすればいい」という話ではありません。佐藤さんもそれを知り、表情が一段と真剣になりました。
浮かび上がった3つの課題──そして佐藤さんの“本当の望み”
概算評価が見えてきたところで、相続における本質的な問題が明らかになりました。
課題1:妻の生活をどう守るか
家庭内別居とはいえ、長年連れ添った妻です。佐藤さんは口には出しませんでしたが、「まったく何も渡さない」というつもりはないことが、言葉の端々から感じられました。
ただし“渡し過ぎたくない”のです。
この繊細な気持ちは、遺言書に真正面から書くべきではありません。
「妻には財産を渡さない」
そう書けば、残された家族の火種を作るだけです。だからこそ、どう表現するか が極めて重要になります。
課題2:子ども2人への暮らしの不安を残したくない
財産の分け方は、残す側の“気持ち”と受け取る側の“公平感”がぶつかり合うテーマです。
このまま何もしなければ、妻と子どもが共有となり、誰も望まないトラブルを生む可能性があります。
課題3:相続税・贈与税の不安
駐車場を妻に渡したら税金はどうなるのか? 自宅マンションの評価が高かったら、相続税が発生するのか? 納税資金はどうするのか? 次々と疑問が湧いてきました。
3つのアドバイス
佐藤さんの複雑な気持ちを整理しながら、次の方向性を示しました。
① 正確な相続財産の評価をすること
まずは、
・登記簿謄本(敷地権割合)
・固定資産税評価通知書
を確認し、正確な評価を出すこと。
ここを曖昧なまま進めると、後の判断がすべて狂います。
② 感情と税務の両方に配慮した「分割案」を作成すること
佐藤さんの本心は、
・妻には渡したくない
・しかし恨まれるのも困る
・子どもに負担もかけたくない
という3つの矛盾を抱えています。
そこで次のような案を提示しました。
A案:妻には生活に必要な最低限の財産+駐車場の収入を駐車場を妻に渡す
そうすることで「感謝」を生む可能性があります。贈与ではなく、相続で渡す方法も含めて検討します。
B案:妻に自宅を渡す代わりに、他財産で子どもに調整
感情ではなく「生活」の観点で妻の将来を守り、不公平をなくす方法です。
C案:共有を避けるための遺言整備
妻・子の間でトラブルが起きないよう、遺言で役割を明確にします。
③ 遺言書・家族信託という“争いを生まない仕組み”を整える
特に佐藤さんは
・認知症になった場合
・死後、妻と子がどう動くか
・その中で“恨まれない形”が作れるのか
この点を強く不安に感じていました。
そこで、
・公正証書遺言
・家族信託
・財産管理委任契約
など、将来のトラブルを未然に防ぐ手段を提案しました。
佐藤さんの“決意”──本音と折り合いをつけるということ
面談の最後、佐藤さんは深く息を吐き、静かにこう言われました。
「渡したくない気持ちは本音です。でも、遺言にそのまま書いたら……残された家族が壊れますよね。そこは、ぐっと抑えないといけないんですね」
私たちはこうお伝えしました。
「本音は本音として持っていて良いのです。ただ、遺す形は“恨まれない工夫”が必要です」
その言葉に佐藤さんは頷き、帰宅後さっそく登記簿や書類を探し始めたとのことです。
まとめ──相続とは“気持ちの整理”でもある
佐藤さんのケースは、決して特別ではありません。
・本当は渡したくない
・恨まれたくない
・でも、家族が揉めるのはもっと嫌
多くの方が、“本音”と“建前”の間で揺れながら相続を考えています。
相続とは、財産の話でありながら、実は「気持ちの整理」なのです。
今回の佐藤さんが、一歩踏み出して相談したことで、家族の未来は確実に変わりました。そして、あなたのご家庭にも、同じように隠れた本音と不安があるかもしれません。
曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
