「お金のことは、もう心配ないと思っていたんです」
そう語るのは、埼玉県に暮らす小川道夫さん(仮名・65歳)。妻の郁子さん(仮名・63歳)と2人暮らしで、大手企業を定年退職しました。
企業年金と厚生年金を合わせた年金収入は月32万円ほど。住宅ローンはすでに完済しており、老後資金として預貯金や投資信託を合わせて約2,500万円を保有していました。
「贅沢をしなければ、十分やっていけると思っていました。子どもたちも独立して、夫婦ふたりで静かに暮らすつもりだったんです」
そんな道夫さんが始めたのが、シニア世代向けに「退職後の資産管理」や「年金制度」について発信するSNSアカウントでした。
X(旧Twitter)で、自身の体験をもとに投稿を続け、フォロワーは100人ほど。「勉強になります」「参考にしています」といった反応もあり、次第に発信が日課になっていったといいます。
ある日、見知らぬアカウントからダイレクトメッセージが届きました。
「資産2,000万円以上の方限定で、特別な海外投資案件をご案内しています」
添付されていたのは、海外債券の資料とされるPDFファイル。年利8%、政府保証付き、日本の銀行口座から購入可能――一見すると、もっともらしい内容でした。
「最初は疑っていました。でもやりとりが丁寧で、質問にもすぐ答えてくれて…」
道夫さんは「試しに」と200万円を振り込みました。すると数週間後、利息のような入金があり、相手からは「運用は順調です」と連絡が届きます。
その後、追加投資の勧誘が始まりました。
「ここで増額すれば、老後資金にもっと余裕が出ますよ」
迷いながらも数回に分けて送金し、被害額は最終的に約680万円に。不審に思って問い合わせた時には、相手のアカウントはすでに削除され、振込先の口座も解約されていました。
警察に相談しましたが、「相手の実態がつかみにくく、追跡や回収が難しいケースもある」と説明されたといいます。
