「定期預金で十分ですよ」──そう言われ続けた30年
東京都内の中堅メーカーで定年を迎えた佐々木昭夫さん(仮名・60歳)。30代の頃から、毎月2万円を「財形貯蓄」として積み立ててきました。加えて、ボーナス時の預金や退職金の一部を普通預金に回し、退職時点での金融資産は約2,800万円。企業年金と公的年金を合わせ、将来的な年金収入は月25万円程度になる見込みです。
「同期と比べても、悪くない数字だと思っていました。銀行に相談して、ずっと定期預金と個人年金保険を続けてきたので、特に不安はなかったんです」
銀行窓口で相談しても、勧められるのは「元本保証」の商品ばかり。佐々木さん自身も「リスクは取りたくない」という思いが強く、投資商品や制度について深く調べることはありませんでした。
ところが、同じ時期に定年を迎えた同期社員・高橋さん(仮名)との何気ない会話で、状況は一変します。
「え、資産運用? 俺、iDeCoもNISAもずっと使ってたよ。定期預金だけじゃ、もったいないでしょ」
高橋さんは30代後半から、iDeCo(個人型確定拠出年金)とNISAを併用。毎月一定額をインデックスファンドに積み立ててきたといいます。
「iDeCoは掛金が全額所得控除になるし、NISAも運用益が非課税。長く続けるほど、差が出ると思ってた」
話を聞くうちに、佐々木さんは愕然としました。
「制度の存在は聞いたことがあった。でも、“自分には関係ない”と思って調べもしなかった。銀行も、定期預金以外の話はほとんどしなかったんです」
佐々木さんの資産運用は、ほぼ定期預金のみ。2000年代以降は超低金利が続き、金利は0.01%前後。資産残高が増えても、利息は年間数千円から、良い年でも1万円に満たない水準でした。
「“増えない”とは思っていましたが、ここまで差がつくとは…」
高橋さんの話をもとに概算してみると、定期預金中心だった佐々木さんと、iDeCo・NISAを活用して積立投資を行ってきた同期との間には、数百万円から1,000万円規模の差が生じている可能性があるといいます。
金融庁が公表している長期・積立・分散投資のシミュレーションでは、定期預金のみで資産を保有した場合と、株式等を含む分散投資を行った場合とで、20年以上の運用期間において大きな資産差が生じるケースが示されています。条件次第では、差が数百万円から1,000万円規模になることもあります。
