「65歳の自分に言いたい。“もらっておけ”って」
「確かに金額は増えました。でも、今さらそれで何ができるのかって思ってしまうんです」
そう話すのは、神奈川県に住む高城義久さん(仮名・75歳)。都内の中堅出版社で定年まで勤務し、60歳で退職。その後は年金受給を繰り下げることを決断し、75歳からの受給を選びました。
「60代後半までは貯金でなんとかなりましたし、特に不自由も感じていませんでした。“どうせ長生きするだろう”なんて考えていました」
公的年金の繰下げ制度では、受給開始年齢を1ヵ月遅らせるごとに年金額が0.7%増加します。最大の75歳まで遅らせると、42%増しで年金が支給されます(令和4年4月改正後の制度)。
高城さんも、当初は「月17万円くらいの予定が、24万円以上になる」と計算していました。確かに金額は増えましたが、受給開始後すぐに体調を崩し、病院通いの日々が始まります。
「お金があっても、行ける場所も減ったし、楽しみにしていた旅行がキャンセルになることもしばしば。元気なうちに、もっと“普通の生活”をしておけばよかったなと思います」
厚生労働省『厚生年金保険・国民年金事業年報(令和5年度)』によると、老齢基礎年金・厚生年金について、繰下げ受給を選択している人の割合は、令和5年度末時点で約1.6%にとどまっています。一方、繰上げ受給を選択している人は0.9%とさらに少なく、多くの人は65歳での通常受給を選んでいるのが実情です。
また、厚生労働省によると、令和4年における男性の健康寿命は72.57歳。75歳を過ぎると、通院や生活支援が必要になるケースも増え始めます。
「“月24万円”って言えば聞こえはいいですけど、結局のところ、それをどう使うかが問題で。70代半ばで体が言うことを聞かないなら選択肢が限られてしまうんですよ」
