「これ、見てくれないか」父が差し出した封筒の中身
「年末の帰省のときでした。炬燵に入っていた父が、急に“これ、見てくれないか”と言って、茶封筒を差し出してきたんです」
そう語るのは、都内在住の会社員・佐藤亮太さん(仮名・52歳)。地方にひとりで暮らす父・正雄さん(仮名・85歳)は、数年前に母を亡くしてからも、年金と貯金で自立した生活を続けていると聞かされていました。
しかし、封筒の中から出てきたのは、手書きの「借用書」。そこには、正雄さんが知人男性に1,000万円を貸し付けていたことが記されていたのです。
正雄さんによれば、数年前、地元の知人から「事業に失敗して資金繰りが厳しい。少しだけ貸してくれないか」と持ちかけられ、断れずに500万円を振り込んだといいます。
「それで終わると思っていたら、今度は“あと少しだけ”って。いつの間にか、合計で1,000万円以上貸していました」
当初は通帳を見れば引き出し履歴で確認できたものの、その後、相手とは連絡がつかなくなったといいます。借用書だけが残され、返済の見通しは立っていない状況でした。
まとまった金融資産を保有していることが、トラブルの温床になるケースもあります。2023年の金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査(2人以上世帯)』によると、65歳以上の高齢者の金融資産平均保有額は2,000万円を超えています。
また、内閣府『令和7年版 高齢社会白書』によれば、2024年中の特殊詐欺被害者のうち、65歳以上の高齢者が65.4%を占めています。さらに「信頼していた相手からの金銭的搾取」は、法的トラブルに発展しにくいぶん、実態が表に出にくいのが現状です。
