(※写真はイメージです/PIXTA)

日々の業務に忙殺され、役員変更登記を失念…。このようなミスを犯す経営者は珍しくありません。とくに多いのは同じ役員が続投する「重任」の登記忘れです。会社の業務実態が変わらないことから、つい見過ごされがちですが、そこには会社の運営を大きく損なうリスクがあるため、十分な注意が必要です。司法書士の加陽麻里布氏が解説します。

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役員変更登記の「失念」は珍しくない

「役員は変わっていないので、登記は不要だと思っていました…」

「任期を10年にしていたので、うっかりしていた。気づいたら何年も経っていた」

 

実は、役員変更登記の「失念」は珍しくありません。とりわけ多いのが、役員が同じまま続投する「重任」の登記忘れです。社内の実態はなにも変わっていないため、日常業務が回ってしまい、危機感が持てない。ここが落とし穴になります。

 

しかし、役員変更登記は単なる事務作業ではありません。登記事項は第三者に対する公示であり、金融機関・取引先・行政が「その会社をどう評価するか」の前提になります。つまり、登記が古い会社は、外から見ると管理が甘い会社として扱われやすい。これが致命傷になりかねないのです。

役員が同じでも「登記が必要」な理由

取締役や監査役には任期があります。任期が満了したら、同じ人が続ける場合でも、会社として改めて選任(重任)の意思決定をし、その事実を登記で反映しなければなりません。

 

この仕組みは、「経営を任せ続ける」という会社の意思決定を外部から検証できるようにするためです。だからこそ、役員が同じでも登記が要るのです。

まず最初に確定すべき3点

「気づいた瞬間」にやるべきことは、手続開始ではなく、事実の確定です。ここを誤ると、後の書類の作り直しや説明不能が起きます。

 

①最後に登記された役員の就任(登記)年月日

→ 登記事項証明書で確認します。

 

②定款で定める役員任期(2年なのか、10年なのか等)

→ 任期設定が違うと、登記懈怠期間が根本から変わります。

 

③「最後の登記」から12年を超えていないか

→ 長期放置の場合、過料より重い会社の状態変化が起き得ます。

 

ここまで確定して初めて「どの分岐にいるか」が見えます。

リスクは3層…「過料」は一番浅い

役員変更登記の失念で語られやすいのは、代表者個人に科され得る過料(100万円以下)(会社法976条)です。もちろん軽視はできません。ただ、実務で痛いのはむしろ次の2つです。

 

①信用の毀損で、資金調達・契約が止まる

登記事項証明書は誰でも取れます。与信調査や融資審査、投資家のDDで「役員の登記が長期に更新されていない」と分かった瞬間に、こうなります。

 

●追加資料の要求が増える

●手続が止まる(稟議が通らない)

●コンプライアンス上の懸念として評価が落ちる

 

会社が成長しようとする局面ほど、このダメージは致命的です。「登記が古い」だけで、他がどれだけ整っていても、入口で弾かれることがあります。

 

②許認可・補助金・入札で形式不備になる

近年、申請書類として登記事項証明書の提出を求められる場面は増えています。登記と実態が食い違うと、申請が滞るだけでなく、手続の信用性が疑われます。会社にとっては、機会損失が一番痛いです。

 

③最悪、みなし解散となる(つまり会社を解散させられる)

最後の登記(例えば設立時)から長期間(12年)登記がない場合、いわゆる「みなし解散」として解散登記がされるリスクがあります。事前通知が届くため、放置は危険です。

 

この段階に入ると、通常の役員重任登記では済まず、「会社継続」等の別手続が必要になり、難度もコストも跳ね上がります。

うっかり…を「致命傷」に変えるのは、「放置」「先送り」

登記忘れ自体は珍しくありません。致命傷になるのは、多くの場合「気づいてからの先送り」です。

 

時間が経つほど、説明資料が失われ、役員の住所変更・死亡・辞任などが絡み、必要登記が連鎖します。結果として、シンプルだったはずの案件が複雑化し、融資・M&A・許認可更新の期限に間に合わないという形で、会社に実害が出ます。

実務的なリカバリー手順

やるべきことは明確です。

 

①任期満了と重任の事実を、適法な機関決議で整える

→ 基本は株主総会(会社の機関設計により取締役会等も絡む)。

 

②懈怠期間中に役員の状態変化がないか洗い出す

→ 辞任・死亡・住所変更があれば、同時に整理する。

 

③登記申請をまとめて適正に組み立てる

→ どの時点の決議をどの形で用意するかは、会社の状況次第で分岐する。ここを誤ると補正が増え、時間を失ってしまう。

経営者が年末年始にやるべきことは「登記の棚卸し」

会社の節目(定時株主総会の準備・来期の資金調達・許認可更新)に向けて、登記事項の棚卸しは年末年始がもっとも効率的です。

 

役員変更登記の失念は、会社の中身ではなく「外から見える信用」を傷つけます。

 

致命傷になる前に、登記という“見えないリスク”を一度点検してみましょう。

 

役員変更(重任)登記の失念チェックリスト

 

□ 登記事項証明書で、最後の役員就任(登記)年月日を確認した

□ 定款で、取締役・監査役の任期(2年/10年等)を確認した

□ 任期満了日から2週間を超えているか把握した(登記懈怠期間の目安)

□ 懈怠期間中に、辞任・死亡・住所変更がないか確認した

□ 最後の登記から12年超の可能性を疑い、みなし解散の記載がないか確認した

□ 融資・契約・許認可更新・補助金等の予定が近い(優先順位を上げる)

□ 決議機関(株主総会/取締役会等)の設計を確認した(定款・登記と整合)

 

 

加陽 麻里布
司法書士法人永田町事務所 代表司法書士

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