雑所得から金融商品へ、税率は一律約20%に
現行制度では、暗号資産取引による利益は給与所得などと合算され、所得水準に応じた超過累進課税が適用される。その結果、所得税と住民税を合わせた最高税率は約55%に達する場合もあり、株式や投資信託など他の金融商品と比べて、著しく不利な扱いとなっていた。
とりわけ、事業所得や不動産所得、金融所得を幅広く有する富裕層にとっては、暗号資産による利益が他の所得と合算されることで限界税率(所得や課税標準額が増加したとき、その増えた部分にのみ適用される税率)が引き上げられ、結果として暗号資産への投資を敬遠する要因となってきた。
税制改正大綱では、暗号資産課税の基本的な考え方について、「投資家保護を図るための制度整備を前提として、暗号資産取引に係る所得について、申告分離課税への移行を検討する」としている。
暗号資産を国民の資産形成に資する金融商品として位置づけ、株式等と同様の課税の枠組みに近づけることで、実現すれば税率は所得税15%、住民税5%の合計約20%となる見通しだ。長らく課題とされてきた「最高55%課税」は大きく是正され、富裕層にとっても、他の金融資産と横並びでポートフォリオを構築しやすい環境が整う可能性がある。
損失繰越控除を創設、富裕層の投資行動にも影響か
今回の改正案のもう一つの柱が、損失繰越控除制度の導入だ。暗号資産市場は価格変動が大きく、短期間で多額の含み益や含み損が生じやすい特性を持つ。
税制改正大綱では、暗号資産取引に係る損失について、一定期間の繰越控除を認める仕組みを検討するとしており、価格変動リスクに配慮した制度設計を進める考えが示された。
これは、短期売買にとどまらず、中長期で資産配分を行う富裕層にとっても重要なポイントといえよう。単年度で大きな損失が生じた場合でも、翌年以降の暗号資産所得と相殺できる制度が導入されれば、年をまたいだ投資戦略を立てやすくなるからだ。結果として、短期的な値動きに過度に左右されにくい投資行動を促す効果も期待される。
もっとも、暗号資産による損失を給与所得や不動産所得など他の総合課税所得と損益通算することは想定されていない。また、株式に見られる長期保有による譲渡所得の2分の1課税といった優遇措置も適用対象外とされる方向であり、税制上はあくまで限定的な金融商品としての扱いにとどまる点には注意が必要だろう。
分離課税の対象は限定的
分離課税の対象となる暗号資産の範囲についても、大綱は慎重な姿勢を示している。制度の安定運用と投資家保護を重視し、対象範囲は限定的に整理される見通しだ。
具体的には、金融商品取引法上の登録を受けた暗号資産交換業者を通じて行われる譲渡等で、投資家保護上の要件を満たす取引が想定されている。
富裕層のなかには、海外取引所の利用やウォレット間取引、DeFiを活用した運用を行っているケースも少なくない。しかし、こうした取引が直ちに分離課税の対象となるとは限らず、取引形態によっては従来どおり総合課税が適用される可能性も残る。今後は、どの取引が分離課税の対象となるのかを見極めたうえで、取引手法を選択する必要性が高まるだろう。
適用開始は金商法改正後、資産戦略の見直しも視野に
税率約20%の申告分離課税が適用される時期については、金融商品取引法の改正と連動する形で整理される見通しだ。改正金商法の施行後、一定の準備期間を経て、その翌年以降の暗号資産の譲渡等から適用される可能性がある。その間に富裕層や高額投資家は、暗号資産を含めた資産配分や売却タイミングをどのように設計するか、戦略的な検討を迫られることになる。
申告義務は継続
分離課税に移行しても、暗号資産取引における損益計算や確定申告が不要になるわけではない。複数の取引所やウォレットをまたいだ取引が一般化するなか、取得価額や実現損益を正確に把握することは、特に取引量の多い富裕層ほど難易度が高い。
総平均法による取得価額の計算や、年末時点での評価整理など、適切な管理体制を構築できるかどうかが、今後の税務リスクを左右することになる。
普及拡大を背景に、暗号資産は「富裕層資産」の一角へ
暗号資産の利用者は着実に増加しており、政府や金融庁も投資家保護と市場の健全化を前提に、暗号資産をデジタル経済の一要素として位置づけつつある。
今回の税制改正大綱は、暗号資産を「投機的な例外資産」から、「制度のなかで管理される金融資産」へと位置づけ直す試みといえる。税負担の明確化と制度整備が進めば、富裕層の資産ポートフォリオにおいても、暗号資産が一つの選択肢として本格的に組み込まれる局面が訪れる可能性がある。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
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