(画像はイメージです/PIXTA)

富裕層の資産管理や運用を専属でサポートする金融の専門家「プライベートバンカー」。プライベートバンカーの仕事は、金融商品を提案することだけではありません。顧客がどのように資産を築き、なにを大切にし、どのような人生を歩もうとしているのか――その背景を深く理解することから、すべては始まります。そこで本記事では、プライベートバンカーが顧客を理解するためにとる行動やコミュニケーション、顧客の意思決定を妨げる「4つの心理的ハードル」を下げる方法まで、その実務の全体像を公認会計士の岸田康雄氏が解説します。

プライベートバンカーが顧客と会ってすぐ「提案」しない理由

プライベートバンカーは顧客に対しまず行うのは、現状把握と資産形成の背景を理解することです。顧客がどのようにして現在の資産を築いてきたのかを知ることは、その後の提案の質を大きく左右します。

 

たとえば顧客が会社経営者であれば、どのような事業を営み、どのような考え方で投資判断をしてきたのかを尋ねます。会話のなかから、お金の使い方やリスクに対する姿勢、意思決定の癖などを読み取り、より適切な助言につなげる準備を整えます。

 

また、ここで資産が「自ら築いたもの」なのか「相続によって得たもの」なのかを把握することも重要です。

 

一般的に、相続資産を中心に保有している人はリスク回避的で、慎重な運用を好む傾向があります。一方、事業などを通じて自ら資産を築いた人は、一定のリスクを取ってでも成長を目指す志向が強いケースが少なくありません。

 

お金の全体像を立体的に把握する

顧客の資産状況を正しく理解するには、保有資産の額だけでは不十分です。日々のキャッシュフローや借入金の状況、将来必要となる老後資金や相続税の見通しまで含めて、全体像を把握する必要があります。

 

また、資産を「どのように保有しているか」を確認するのも重要です。国内資産か海外資産か、個人名義か法人名義か、法人で保有している場合には持株比率や経営への関与度合いなども含めて把握します。こうした情報が、税務や承継を見据えた提案の土台となるのです。

健康、子育て…「お金以外」の話を引き出すことがスキルの証

プライベートバンカーにとって、顧客の話を丁寧に聞く力、いわゆる「傾聴力」は欠かせないスキルです。

 

知り合って間もない段階で、顧客がいきなり本音で悩みや問題を打ち明けることはほとんどありません。時間をかけて話を聞き、共感を示しながら信頼関係を築くことで、徐々に本質的な相談が出てくるようになります。

 

信頼関係が深まると、資産運用以外の相談を受けることも増えてきます。その代表例が健康問題です。

 

もっとも、健康に関する話題は非常にデリケートなため、プライベートバンカーから積極的に踏み込むことはありません。顧客から相談があった際に迅速に対応できるよう、介護施設や高度医療機関、専門医とのネットワークを日頃から整えています。

 

また、子どもや孫の教育に関する相談も多く寄せられるため、受験事情に詳しい専門家や学校関係者、さらには海外留学を支援できる人脈を備え、必要に応じて紹介できる体制を整えています。

 

さらに、ファミリービジネスを営む顧客にとっては、「後継者問題」も重要なテーマです。「後継者を一度社外で経験を積ませたうえで社内に戻す」といった一般的な流れについても、折に触れて助言やサポートを行います。

 

こうした幅広い対応も、プライベートバンカーの実務の一部です。

 

次ページ顧客の意思決定を妨げる「4つのハードル」とは?
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