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成長率下方修正も、長期トレンドは「盤石」
世界三大格付け会社の一角を占めるS&Pグローバル・レーティングは11月28日、フィリピンの長期ソブリン(国債)格付けを「BBB+」、短期格付けを「A-2」に据え置くとの決定を発表しました。今回の発表において特筆すべき点は、将来的な格付け変更の方向性を示す「アウトルック(見通し)」について、引き続き「ポジティブ(強含み)」を維持したことにあります。
この「ポジティブ」維持という判断は、向こう12カ月から24カ月以内に、フィリピンが長年の国家的目標として掲げる「A」ランク領域への格上げを実現する可能性が、依然として高く残されていることを意味します。足元では政治的な不確実性の高まりや経済成長の鈍化が見られるものの、同国のマクロ経済における基礎的条件(ファンダメンタルズ)に対する国際的な信認は毀損されておらず、堅調さを維持していることを示唆するものです。
今回のS&Pによる審査において最大の焦点となったのは、フィリピン国内で大きな波紋を呼んでいる洪水対策事業をめぐる汚職スキャンダルと、それに伴う実体経済への悪影響でした。S&Pの分析によれば、一連の問題を受けてインフラ整備事業が一時停止を余儀なくされ、公共支出が滞ったことが、本年の経済成長率を押し下げる主因となっています。事実、第3四半期のGDP成長率は4%まで減速しており、これを受けてS&Pは2025年の年間成長率予測を従来の5.6%から4.8%へ、2026年の予測についても5.8%から5.7%へと下方修正を行いました。
しかしながら同社は、こうした減速あくまで「一時的な現象」であると捉えており、フィリピン経済が持つ長期的かつ構造的な成長トレンドそのものは損なわれていないとの見解を示しています。過去10年以上にわたり積み重ねられた慎重な財政運営の実績や、管理可能な範囲に抑制されている財政赤字などが、現在の高い格付けを支える強固な防波堤となっているのです。
このフィリピンに対する「BBB+(ポジティブ)」という評価を、日本を含むアジア近隣諸国と比較することで、同国の立ち位置と目指すべきゴールがより鮮明になります。アジア域内における信用力の頂点に君臨するのは、盤石な金融センター機能を有するシンガポールであり、最高位の「AAA」を維持しています。これに続くのが日本であり、膨大な公的債務を抱えながらも、圧倒的な国内資金調達力と経済規模を背景に「A+」という高い評価を堅持しています。そして、フィリピンが当面のベンチマークとして追随しているのがマレーシアです。マレーシアは「A−」の格付けを有しており、フィリピンが現在の「BBB+」からワンランクの格上げを実現すれば、この「A」ゾーンの入り口に並び立つことになります。
一方、フィリピンと同じ「BBB」ゾーンには、地域の強力なライバルたちがひしめいています。最も直接的な比較対象となるのは、自動車産業等の産業集積が進むタイであり、格付けはフィリピンと同じ「BBB+」です。
しかし、ここで重要な差別化要因となるのがアウトルックです。タイが「安定的(ステーブル)」であるのに対し、フィリピンは「ポジティブ」を維持しています。これは、格付け会社がフィリピンの将来的な成長余地や財政改善のポテンシャルをタイ以上に高く評価している証左であり、次期格上げ競争においてフィリピンが一歩リードしている状況といえます。
また、巨大な国内市場を持つインドネシアは「BBB」、急速な経済成長で注目を集めるインドは「BBB−」といずれも投資適格級ではありますが、現時点ではフィリピンよりも下位に位置しています。さらに、製造業の拠点として日本企業の進出も著しいベトナムですが、格付けは「BB+」にとどまっており、いまだ「投資適格級」の基準には達していません。ベトナムが依然として「投機的」水準とみなされるなか、フィリピンが安定して投資適格級の上位を維持していることは、海外直接投資(FDI)の誘致や国債発行条件において大きな優位性(アドバンテージ)となります。
