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「年賀状じまい」に惹かれた理由
東京近郊で暮らす貴子さん(63歳・仮名)は、この一年、特に「終活」を身近に感じるようになりました。
理由のひとつが、夫の生活の変化です。3歳年上の夫・和夫さん(66歳・仮名)は今年から完全な年金生活に入りました。
夫婦が受け取っている年金は合わせて月約25万円ほど。
贅沢はできないが、節約を心がければ暮らしていける。しかし、物価上昇が続く中、
「老後資金が目減りしていく」という漠然とした不安が、貴子さんの頭の片隅にいつもありました。
そんな中、テレビで「年賀状じまい」をする人が増えていると知りました。
印刷代や切手代も毎年積み重なれば決して軽くありません。
「そろそろ私も年賀状をやめてもいいかも……」
そう思ったとき、胸に引っかかったのが学生時代から続いてきた友人との年賀状でした。年賀状をやり取りしている相手は10人にも満たない。それでも、その“たった一人”が気になったのです。
独身でキャリアを築いた友人と、家庭に入った自分
貴子さんは短大卒業後すぐに家庭に入り、2人の娘を育てながらパートで働いてきました。
対して、友人S子さんは寿退社が当たり前の時代に独身を貫き、自立して働いてきた女性。
「ずっと誇らしい存在でした。でも……どこか引け目があって。直接会うのは避けてしまって」
「ライフステージが変わると女の友情は崩壊する」そんな言葉を、心のどこかで信じていた自分もいました。
年賀状だけが、かろうじてつながっていた細い糸。これを機に手放してしまってもいいのかもしれない。でも、本当にそれで良いのだろうか。
思い切って電話をかけると、意外な言葉が
迷い続けた末、貴子さんは思い切ってS子さんに電話をしました。S子さんは年賀状に「いつでも電話してね」と電話番号を書いておいてくれたのです。
「久しぶり!」
受話器越しの声は学生時代のまま。その瞬間、すべての距離がふっと溶けたように感じました。
話を聞くと、友人は会社を定年退職した後、フリーランスとして自由に働き、想像以上に充実した生活を送っていました。
そして、予想もしない言葉が。
「実はね、あなたのこと羨ましかったのよ。家庭をしっかり築いて、娘さんにも恵まれて。穏やかな旦那さんと暮らすって、簡単なことじゃないでしょ? 私なんて最初はいいかなと思った男性もみんなどんどんヒモ化していって……だからあなたのことが本当に羨ましかったのよ」
その言葉に、貴子さんは息をのみました。
引け目を感じていたのは自分だけだったのかもしれない。
「私、あなたの年賀状を毎年楽しみにしてたの」
電話は1時間以上続き、学生時代そのままのテンポで笑い合いました。そして最後に、友人はこう言いました。
「年賀状、実は毎年楽しみにしていたの。あなたの字を見ると安心するのよ」
その一言に、貴子さんの中で何かがほどけました。
年賀状じまい——それはもう少し先にすればいい。2人は数十年ぶりに会う約束をしました。彼女の男性遍歴の話も会ってからじっくり聞くことに。2人は「やだ! 若い頃を思い出すわね!」と笑い合って電話を切りました。
女性の友情は脆(脆い)いと言われるけれど、途切れたように見えた縁がまた交わる瞬間がある。
そのことを、貴子さんは久しぶりに実感したのです。
