メールアドレス提供には慎重な姿勢を
制度はメールアドレス提供を前提に設計されていますが、それでも私は、実務家としてあえてこうお伝えします。「メールアドレスの提供を、安易にはおすすめしません」。それは、下記の理由によります。
①本物と偽物の見分けが、一般の方には非常に困難だと思われるものもある
②メール確認漏れがあると、自動住所変更のメリットを享受できない
③書面通知の方が最終的に確実で安全
これらは、日々相談を受ける中での「現場の結論」です。
もちろん、ITに強いという自認があり、毎日メールを確実にチェックしていて、フィッシング対策にも慣れている…という方であれば、メール提供のメリットを活かせるでしょう。
しかし、むしろ 「メール提供なし」のほうが安心して運用できると感じています。とくに、下記に該当する方々です。
●高齢である
●メールはほとんど見ない
●スマホやPC操作が得意でない
●詐欺メールが心配で仕方ない
怪しいメールを受け取ったときの対応術「3つ」
とはいえ、現実には法務省から正規のメールが来る可能性もあります。怪しいメールを受け取ったときの対応術を3つに絞っておきます。
【1】 メール内のリンクは絶対にクリックしない
下記のようなリンクは、そのままクリックしないことが大原則です。
●「こちらから登録」
●「このURLにアクセスして手続きを行ってください」
何か操作が必要だと感じたら、
①メールのリンクは無視し、
②自分でブラウザを開き、
③法務省や登記・供託オンライン申請システムの公式URLを“手入力”してアクセスする
という流れを徹底してください。これだけで、かなりの被害は防げます。
【2】 送信元アドレスを「一文字単位」で確認する
まずは下記について、落ち着いて確認しましょう。
●公式サイトに載っているアドレスと完全一致しているか
●「moj.go.jp」が「moj.co.jp」などにすり替わっていないか
●不自然な英数字が紛れ込んでいないか
詐欺メールは、あえて本物と1〜2文字だけ違うアドレスを使ってきます。少しでも違和感があれば、その時点でメール全体を信用しないのが安全です。
【3】添付ファイルは一切開かない
法務省からの案内メールに、下記のようなファイルが添付されていれば、ほぼアウトと考えてください。
● ZIPファイル
●Wordファイル
●Excelファイル
こうしたファイルは、ウイルス感染や情報抜き取りの入口になります。開封した瞬間に感染するケースも多く、絶対にクリックしないでください。
怪しいと思ったら「何もしない」…これが「最大の防御」
最後に、ポイントをもう一度整理しましょう。
●2025年4月21日以降、不動産登記ではメールアドレスの提供が原則必要になる
●2026年4月からの住所・氏名変更登記義務化と、職権による自動住所変更の“下地づくり”としてメールが使われる
●その制度に便乗して、法務省・登記供託オンライン申請システムを装うフィッシングメールが出回り始めている
●メール内リンクは踏まない/送信元アドレスを確認/添付は開かないのが三大原則
●メールアドレスの提供は、「便利さ」と「リスク」のトレードオフ。どうしても不安な人は「メールなし」の選択肢も視野に入れる
そして何より大切なのは、少しでも「おかしい」と感じたら、そのメールで何もしないことです。クリックしない。返信しない。添付を開かない。そのうえで、気になる場合は公式サイトか、信頼できる専門家に直接確認してください。
「法務省からの重要なお知らせ」という言葉に驚いて、あわててクリックしてしまわないように。制度の中身をきちんと理解しつつ、「便利さ」だけでなく「安全性」も天秤にかける視点を、ぜひ持っていただきたいと思います。
佐伯 知哉
司法書士法人さえき事務所 所長
