「庭の手入れ」から「安心」への投資
佐々木和夫さん(仮名・74歳)と妻の直子さん(72歳)。夫婦ともに元大手企業勤務で、公的年金と企業年金を合わせ、月額約35万円という安定した収入があります。以前は都心から少し離れた郊外で、庭付きの一軒家を所有していましたが、和夫さんが腰を痛めたのを機に、住み替えを決意しました。
「広すぎる家と庭の手入れが、肉体的にも精神的にも負担になっていました。老後の生活は、体力の温存と安全が最優先だと考えたんです」
夫婦が選んだのは、都心に建つ築浅のタワーマンション最上階でした。一軒家を売却した資金を充て、終の棲家として購入しました。
タワーマンションに移り住んでからの生活は、以前とは一変しました。
「最大の魅力は、やはりコンシェルジュサービスです。ホテルライクな暮らしはもちろんですが、私たちにとっては『見守り機能』として機能してくれています」と直子さんは語ります。
体調不良時の対応: 郵便物や宅配便の受け取り、クリーニングの取り次ぎなど日常のサポートに加え、体調が優れないときにコンシェルジュに相談すると、すぐにタクシーを手配してくれたり、娘夫婦への連絡代行をしてくれたりします。
物理的な安心: 24時間の有人管理と最新のセキュリティシステムにより、訪問販売などの煩わしさから完全に解放されました。
以前の一軒家では、鍵を開けずにいると近所や娘夫婦が心配して電話をかけてきましたが、今はコンシェルジュという「プロの目」が入ることで、日々のささいな変化が第三者に察知される安心感を得ています。
佐々木さん夫婦のような高年金世帯が都市回帰・タワマン志向になる背景には、公的データの裏付けがあります。
年金収入が月30万円を超える世帯は、高齢者世帯全体で見ると少数派ですが(厚生労働省『国民生活基礎調査』)、これらの層は老後資金に余裕があるため、「QOL(生活の質)」を優先し、利便性やサービスが充実した住居を選択する傾向があります。彼らにとって、高額な管理費や修繕積立金は、「時間を買う」「安心を買う」ためのコストと認識されています。
医療機関へのアクセスが良いことや、交通の便が良く、アクティブな生活を継続できる都市環境を求めて、利便性の高いエリアでの暮らしを選択する高齢者も増えつつあります。
