土地を売る? 活かす? 3つのシミュレーション
青木さんに3つのシナリオを提示しました。
1.現状維持
今のまま法人に貸し続ける。ただし節税効果はなく、将来の相続 税は約1億円超。地代の見直しをしないと税務上のリスクがある。
2.法人との関係を見直す
地代を適正額に改定し、借地権を設定する。ただし契約変更や税務処理が必要で、法人側の同意も不可欠。
3.土地・建物を売却して資産を組み替える
AI査定によると、土地建物の売却価格は約5億円。仮に売却後の税金や諸経費を差し引いても、約3億4,000万円が手元に残る試算です。
この資金を賃貸マンションや安定収入型の不動産に再投資すれば、評価を下げつつ収入を確保する「0円相続」に近づく可能性があります。
専門家の視点:「法人化=節税」ではない
多くのオーナーが誤解しているのが、「法人化すれば節税になる」という一般論です。
確かに、所得税や消費税の観点では法人化は有効な場合があります。しかし、相続税の視点では話がまったく違います。
土地と建物を分けた結果、
・借地権の評価減が使えない
・小規模宅地等の特例が適用できない
・「無償返還」で更地評価になる
といった不利な状況が生まれることが多いのです。
つまり、「法人設立=相続対策」ではなく、むしろ相続税を高くしてしまうケースも少なくありません。
青木さんの場合も、まさにその典型でした。
青木さんの決断
最終的に青木さんは、売却も含めて「土地の整理と資産の組み替え」を前向きに検討することを決意されました。
「子どもに苦労をかけたくない。できるうちに整理しておきたい」との思いからです。
今後は、売却額や再投資先を慎重に見極めながら、「相続税を抑えつつ、安定した収入を得る」仕組みづくりを進めていく予定です。
まとめ:相続の視点で「持つ・売る」を判断する
土地を持つことは資産であると同時に、相続の場面では「負担」にもなりえます。
特に法人化した場合、契約内容や評価の仕方によって、数千万円単位で税額が変わることもあります。
大切なのは、
・現在の所有形態が本当に節税になっているか
・将来の相続時にどんな税負担が生じるか
を専門家と一緒に検証することです。
「土地を生かすか、売るか」――その判断を間違えると、何千万円という資産が失われることもあります。
青木さんのケースは、多くの地主さんにとって“明日は我が身”の教訓といえるでしょう。
法人化や不動産の名義変更は、「今の節税」には役立っても、「将来の相続」では逆効果になることがあります。
相続税を減らし、資産を守る――その第一歩は、現状の「資産の構造」を正しく知ることから始まります。
曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
