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中工程(製造工程)がインダストリー4.0の主題
ドイツ人が「インダストリー」と言うとき、それは「ものづくり(製造業)」を意味している。ドイツ人にとって、「インダストリー=マニュファクチャリング」なのだ。
インダストリー4.0構想は、ドイツ経済の基盤である製造業へのデジタル技術の導入により、生産性・効率性を上げ、売上を増やし、利益を出し、ドイツ経済をさらに強くする構想である。
産業クラスター(地域の企業、大学、研究機関、産業支援機関などが連携・協力し、技術やノウハウなどを相互活用して、新産業・新事業を生み出す仕組み)が製造工程の「前工程(=高い技術力をもった売れる製品の開発)」と「後工程(=世界に向けた販路開拓)」に対する支援である一方、インダストリー4.0構想は中工程(製造工程)に対する支援である。これがドイツのものづくりの全工程を政府が支援する体制なのだ。
フラウンホーファー研究機構による支援により、多くの隠れたチャンピオン(※)が生まれ、それに加えて更なる支援を追加して産業クラスターができ上がり、さらにインダストリー4.0構想が実施され、その結果、ドイツのものづくりが一層強い産業に変貌していったと言える。
ドイツのハーマン・サイモン(Hermann Simon)によって提唱された「経営学」上の用語である。比較的規模が小さい企業も多く、一般的な知名度は低いが、ある分野において非常に優れた実績・きわめて高い市場シェアをもつ会社のことを指す。
ものづくりドイツが、さらに一層強力なものづくり国家に変身する環境が2010年代後半頃までにはドイツ全体でほぼ整った。そしてその結果、ドイツのGDPが日本を追い越したのである。
製造工場にも瞬く間に広がった「デジタル技術」の導入
製造業には、間接部門のオフィスワークや製品の企画・開発、製造および販売など、さまざまなステージがあり、どの場面でもデジタル技術の導入は可能であるが、インダストリー4.0構想は、その中でも特に製造工程へのデジタル技術の導入により、生産性を上げることが中心テーマとなっている。
ものづくりの製造工程は、チャップリンの映画「モダン・タイムス」が描いたように、かつては大量の人力を投入していたものが機械化・自動化・省力化(フォード生産方式)されたが、さまざまな生産設備やロボットなどの導入により、機械化・自動化・省力化がさらに進み、もはやこれ以上、効率性・生産性を上げることなどできないのではないかと考えられていた。しかし実は、デジタル技術の導入、繊細な動きをするロボットやAIの導入などにより、一段と省力化・効率化・自動化を図ることが可能になった。
たとえば、自動で流れていた部品・材料のフィードの目詰まりが原因で稼働率が60%止まりであった機械が、デジタル技術を導入することで「見える化」が図られ、稼働率が80%になったとすれば、単純に考えれば、生産量が約30%増え、売上高が約30%増える。また、人間の感覚(視覚、聴覚、触覚等)に依存していた最終検査もAIの導入により、人間の体調や感情などによるバラツキなくほぼ100%の完璧さで実施できるようになった。
さらに機械の奥深い場所など、人間の手を伸ばさないと組み立てできないような難しい加工作業であっても、繊細なロボットがその部分に入り込んで作業をすることが可能になった。
以前、ある日本の自動車メーカーの製造部門のトップ(役員)が話してくれたことがある。自分の工場は、熟練作業員が優秀で、世界的にもトップクラスのものづくりができていると自信をもっていた。
だが、あるとき、ある途上国の自動車の工場を見る機会があった。そこで働いている作業員は、自社の作業員と比べれば、比較にならないほど技能が低い。だが、その工場にはデジタル技術が実装されていた。その結果、自社の製品と何ら遜色のないものができ上がってくるのを見て、大きなショックを受けた。これを見て、ぜひ自分の工場にもデジテル技術を実装しなければならないという確信をもった、という。
