80代母の資産は現預金だけで3億5,000万円にのぼります。月500万円の赤字が続く会社からは、姉夫婦が月100万円の役員報酬を受け取っています。50代の次女は「母の財産を守り、争いを避けたい」と考えていますが、姉夫婦の行動や過去の3,000万円の持ち出し問題もあり、感情と法的権利が複雑に絡み合っています。相続実務士・曽根惠子氏(株式会社夢相続 代表取締役)が解説します。
3,000万円の“生前贈与”問題
姉が過去に受け取った3,000万円については、証拠がなければ返還請求は難しいのが現実です。
ただし、
• 当時の会話や通帳記録
• 録音などの記録
があれば、将来の遺留分侵害額請求への対抗材料になります。
遺言書に加えて、
「この資金は既に贈与済みであり、これ以上は渡さない」
という趣旨を残すことで、相続時の争いを最小限にできます。
民事信託・任意後見の活用も視野に
母親の判断能力が低下してしまうと、遺言では対応できません。そのときに備えて「民事信託」や「任意後見契約」を組み合わせておくと安心です。
信託により、次女が財産管理者(受託者)として資産を守る体制を作れば、入院や介護が長期化しても、預金の凍結や不動産売却の停滞を防げます。
相続は“最後の争い”ではなく、“今から備える管理”の問題でもあります。
実際の準備と費用感
現時点で整理すべき資料は以下の通りです。
| 書類 |
必要性 |
主な用途 |
| 母親の印鑑証明書 |
◎ |
公正証書遺言作成 |
| 財産目録(不動産・預金・株式) |
◎ |
相続税試算・遺言内容決定 |
| 固定資産税通知書・登記簿謄本 |
◎ |
評価・所有者確認 |
| 株式関連書類(名簿・決算書) |
○ |
株主整理・贈与検討 |
| 録音データ(姉への5,000万円) |
△ |
証拠・参考資料 |
いずれも費用がかかりますが、“トラブル防止の保険料”と考えれば、非常に有効な投資だとなります。
まとめ:争うより、「備える」選択を
今回のように、家族間の関係が悪化しているケースほど、弁護士による訴訟よりも、事前の設計で争いを防ぐことが有効です。
相続は「正義」より「準備」で決まります。
遺言書と財産整理を早期に進めることで、母親の意思を守り、将来のトラブルを最小限に抑えることができます。
曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
一般社団法人相続実務協会 代表理事
一般社団法人首都圏不動産共創協会 理事
一般社団法人不動産女性塾 理事
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書86冊累計81万部、TV・ラジオ出演358回、新聞・雑誌掲載1092回、セミナー登壇677回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2025年版 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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