松井頼子さん(71歳・仮名)は、母の相続手続きをきっかけに、自身の老後や財産整理を真剣に考えるようになりました。98歳まで生きた母の姿を見て、「自分も長生きするかもしれない」と感じたといいます。「子どもに迷惑をかけたくない」との思いから、相続や住まいの見直しを始めた松井さん。親世代が老後を見据え、家族に負担をかけないための“次の一手”とは? 相続実務士・曽根惠子氏(株式会社夢相続 代表取締役)が解説します。
母の長寿を見て、自分の老後を重ね合わせる
相談に来られた松井頼子(仮名)さんは71歳。母親が亡くなり、その相続手続きやこれからのことをどうしようかと相談に来られました。
母親は98歳まで健在で、大往生を遂げられました。「母があそこまで長生きしたのだから、私も長く生きるのでは……」と、ご自身の今後の暮らし方を真剣に見直すようになったそうです。
「長生きできることは喜ばしいことだけれど、その分だけ生活費もかかるし、体力や判断力が衰えてきた時に、子どもに負担をかけるのは心配なんです」
そう打ち明けてくださいました。
母親の相続税はかからない
母親の相続人は松井さんと養子になっている長女の2人。基礎控除は4,200万円です。父親が亡くなった13年前、相続人は母親、松井さん、長女の3人が相続人で基礎控除が大きいときで、3人とも同居をしていましたので、小規模宅地等の特例を適用して相続税はかからない範囲になりました。母親の二次相続のことを考えると松井さんと長女が相続するのがよいという判断になり、自宅の土地、建物を2分の1ずつで相続しています。
自宅は母親の財産ではないため、金融資産と生命保険だけでは相続税はかからないことがわかりました。土地評価がかなり高くなった現在では父親が亡くなった当時よりも倍近い評価となり、84坪の土地は2億円近い評価となっています。父親の相続のときの判断が功を奏したといえます。
相続で子どもに苦労をかけたくない
特に強く語られたのは「死後の手続きを簡単にしてあげたい」という思いです。ご本人はすでにご自身の経験から、行政手続きの煩雑さを痛感しています。
年金や戸籍関係の書類を揃えるため、区役所に何度も足を運んだこと。窓口をたらい回しにされ、何度も書類をやり直したこと。あの大変さを、娘に背負わせたくない。そう強く感じているのです。
「私が亡くなった後、娘には自分の生活もあるのだから、できるだけシンプルに済むように整えておきたい」――これが彼女の率直な願いでした。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
一般社団法人相続実務協会 代表理事
一般社団法人首都圏不動産共創協会 理事
一般社団法人不動産女性塾 理事
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書86冊累計81万部、TV・ラジオ出演358回、新聞・雑誌掲載1092回、セミナー登壇677回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2025年版 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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