悪い姿勢では内臓を圧迫し、消化吸収に悪い
食事のマナーの一つとしても、ぜひ親から子に伝えてほしいのが「よい姿勢」です。
寮の生徒たちを見ていても、食事中の姿勢が崩れている子が多くなっています。テーブルに片ひじをついたまま食べる子はまだましで、体を斜めにして長い脚を大きく投げ出している子もいます。
特に多いのが、茶碗を持たずにテーブルに覆いかぶさるようにして食べる、いわゆる〝犬食い〟です。そういう子に話を聞くとだいたい「だって、姿勢なんて教えられてこなかった」という返事が返ってきます。
これでは食事というより動物がエサを食べているのと同じですから、一緒に食事をする人に対して失礼ですし、内臓が圧迫されて消化吸収が悪くなり、本人にとってもいいことはなに一つありません。大事なのは、食卓に対して体の正面をきちんと向けて、腰骨を立てる「立腰」の姿勢で食事をすることです。
よい姿勢は体内に酵素を送り、集中力や持続力を増す
食事だけでなく学習でもスポーツでも、姿勢には非常に重要な働きがあります。「立腰」というのは、哲学者であり元神戸大学教育学部教授の森信三先生が提唱した言葉で、座っている面に対し、腰骨を垂直に立てるようにして背筋を伸ばし、あごを軽く引いた姿勢のことです(下記の図表参照)。
この姿勢でいると胸が開いて呼吸がしやすくなり、脳をはじめ全身に新鮮な酸素と血液が送られます。また大人で5~7キロという重い頭の重心が背骨に正しくのり、頭を支える首や肩の筋肉の歪み・緊張がとれて、疲れにくくなります。
その結果、集中力や持続力が増す、感覚が鋭くなって判断力が高まる、内臓の働きがよくなり健康になるなど、さまざまな効果が得られます。日本に昔から伝わる武道や華道、茶道などでも、腰骨を立てる姿勢を厳しく指導されるものですが、それはこの立腰の効果が経験的に知られていたからでしょう。
兵庫県のある小学校では学校全体で「立腰タイム」を取り入れて取り組んだところ、生活に落ち着きが生まれ、学力も伸びていると聞いたことがあります。先の森信三先生は、人間の心と体はつながっているとして「腰骨を立てることは、エネルギーの不尽の源泉を蓄えること。この一事をわが子にしつけ得たら、親としてわが子への最大の贈り物といってよい」という言葉を遺しています。
慣れないうちは、立腰の姿勢を続けていると疲れると感じるかもしれませんが、逆に、体にとってはこれがいちばん負担の少ない姿勢なのです。
背筋のシャンとした美しい姿勢は年齢を感じさせない若々しさ、病気知らずの健康な体の基本でもありますから、親御さんも一緒に家族で立腰を習慣づけましょう。