お互いを責める両親の姿は、子どもの心に傷を残す
食卓での会話に限りませんが、親子の会話で避けてほしいものが一つあります。それは、夫婦が子どもの前でお互いを批判することです。
私は幼稚園などで保護者を対象に講演をするときに、園長や責任者からよく頼まれることがあります。それは、母親は、子どもの前で父親を批判するようなことはしないように、という話を入れてほしいということです。
最近の母親たちはところかまわず夫の悪口を言い、幼い子どもに対しても「あなたは、あんなお父さんになっちゃダメよ!」などと口にするそうです。
父親を悪しざまに言う母親に対し、心のなかで嫌な思いをしている子どもはたくさんいるのです。母親が父親をののしり、父親が母親を批判し、責任は互いに相手にあると責め立てるような非難合戦を目の当たりにしていたら、揺れ動きやすい子どもの情緒が安定するはずがありません。
そうした子どもは、父親はもちろん、やがて母親も尊敬しなくなります。そしてついには、親の言うことをまったく聞かなくなってしまいます。さらに親を通じて世間一般の大人を尊敬しないという心理にもつながっていき、そうした心の傷が不登校や家庭内暴力などの形になって現れることもままあります。
父親の役割がはっきりしないケースも多いが・・・
私のところに相談に来る非行や不登校の子どもをもつ家庭を見ていると、家庭における父親の役割がはっきりせず、その影すら感じられないことも多いものです。面接に連れ添ってきた父親に意見を聞こうとしても、なにも答えられずただ呆然としているばかりで、母親がそんな父親を叱咤している姿もよく目にします。
もちろん、母親ばかりを責めるわけにはいきません。近年の日本社会では、家事はもちろん家計の切り盛りから子どもの教育まで、家庭のことをすべて母親が担っている家庭もあります。そういうケースでは、かつては父親の役目であったことさえ、母親が背負わなければならないため、そのプレッシャーはたいへんなものでしょう。
またその背景には、父親が家庭を顧みる余裕もないほど、長時間労働を強いられる社会的・経済的な要因もあります。
しかし、母親が父親不在を言い立てるほど、子どもの気持ちは荒みます。理想はもちろん夫婦の仲が良いことですが、たとえ夫婦の仲が悪くても、子どもたちの前では不仲な関係を見せてはいけません。
母親はパートナーである父親を立て、父親はもっと家庭や学校に出ていき子どもと向き合う。夫婦が互いに尊敬し合ってより良い関係を築こうとする姿を見せることが、子どもを育てる教育の根本だということを、忘れないでください。